二宮 話を続けましょう。本書から見えてくる、日本代表の課題というところをご説明いただけますか?
木崎 これは風間さんの意見ではなく、あくまで本書の構成を担当してきた僕の意見として聞いていただければ。
二宮 もちろん分かっています。
木崎 先ほどの「ゴール前で『センターバック』を攻撃する」話ですが、逆に言うとセンターバックが崩されてしまうとすべてが崩されてしまうと言えます。
二宮 確かにチーム全体で必死に守っても「最後の砦」で崩されてしまえば、失点に至る可能性が高まります。
「止める・蹴る」を重視する風間さんの技術論は日本サッカー界に大きな影響を及ぼしています
木崎 センターバックのレギュラーは吉田選手と冨安選手。僕が見ていると2人の動きがちょっとバラバラで初戦のオマーン戦も第3戦のサウジアラビア戦もセンターバックが攻撃されて失点につながったと感じます。風間さんの理論は、積極的にラインを上げ下げして相手のフォワードが止まれないように動かしていくことが大事だ、と。後ずさりさせることになりますから。
二宮 それが「センターバックに対する攻撃」への防御にもなる、と。
木崎 どうしても吉田選手のほうが下がりがちになる。そこで間延びしてしまうと、日本のストロングポイントである遠藤選手のデュエルが発揮できない。最後のところで体をぶつけられるシチュエーションがないわけです。逆に日本のセンターフォワードを務める大迫選手には「センターバックに対する攻撃」が弱いと感じています。タイプ的には相手を背負って味方のほうに顔を向けていることが多いじゃないですか。ここの2つのポイントが、今の森保ジャパンの課題だと個人的には感じています。
二宮 なるほど。
木崎 この本を読んで日本代表の試合を見ると、また別の視点に立ってサッカーを考えることができるのかなと思います。
二宮 本書は日本代表を引き合いには出してないですが、風間さんが指揮した川崎フロンターレと名古屋グランパスについては選手名を挙げながら、いろいろと書かれてあります。フロンターレで3年連続のJ1得点王となった大久保選手に対しては、相手の背後を取る動きが非常にうまかったと記しています。「センターバックに対する攻撃」があるから、あれだけのゴール数があるわけだとあらためて納得させられた感があります。
木崎 身体能力は高いし、動きそのものが抜群でしたからね。ほかに二宮さんが気になった選手いました?
二宮 フロンターレのキャプテンで、主にセンターバックを務める谷口選手をかなり絶賛していましたね。どう褒めているかは、読んでいただければと思います。
木崎 谷口選手は国内組のみでの編成になる来年1月の親善試合ウズベキスタン戦のメンバーに選ばれましたけど、もっと評価されていい選手だとは思います。代表の中心になってもおかしくないプレーヤーですよ。
二宮 さて、ちょっと話題を変えて。そもそも木崎さんは風間さんといつ出会ったのですか?
木崎 スポニチの通信員時代ですね。オランダからドイツに移住して高原選手の担当になってハンブルガーSVを取材していたころ。2004年1月に指導者S級ライセンス取得のための海外研修で風間さんがハンブルクにやってきたんです。ドイツ語ができるので、トップメラー監督のもとで(トップチームの)臨時コーチをやっていましたね。
二宮 海外研修でトップチームに携わるって、特に欧州だとなかなかないですよね?
木崎 ないと思います。普通に球出しやったり、教えたりしていましたよ。
二宮 でもまだ木崎さんとの接点がない(笑)。
左がスポーツライターの木崎さん。風間さんトークで盛り上がりました!
木崎 風間さんはドイツに当時小6だった長男の宏希選手や他の子供たちを連れてきて、地元のクラブチームに練習参加させたんです。ある雑誌からその密着記事を頼まれて、ホテルで風間さんに会ったのが初めてです。ただ僕のひょんな一言で、怒らせちゃって。
二宮 えー! お互いに第一印象は良くなさそう。
木崎 怖い人だなあって。子供たちも練習が終わると怒られているわけです。帰りの車のなかで「きょうのお前たちには何をやりたいかが見えなかった。それならサッカーやめろ!」と。僕も何だか一緒に怒られているみたいでした(笑)。風間さんも、訳の分からないライターを寄こしやがって、くらいに思っていたんじゃないですかね。でもその後は一緒に食事させてもらったり、いろいろと話をさせてもらったりして距離が詰まっていきました。
二宮 風間さんは人を寄せつけないようなオーラもありますけど、実はそんなこと全然なくて。
木崎 そうなんですよね。あとくされのない人なので。
二宮 風間さんの理論に惹かれたのは何かきっかけがあったんですか?
木崎 同じく2004年にジーコジャパンのイングランド遠征がありまして。
二宮 5月31日にアイスランド、6月2日にイングランドと戦ったあの2連戦ですね。
木崎 雑誌のNumberから風間さんの解説記事を頼まれて、隣で一緒に試合を見せてもらったんです。この人はこんなふうにサッカーを見ているのかって凄く衝撃を受けて。
二宮 聞きたいですね、その話。
木崎 たとえばイングランド代表のルーニーとオーウェンの違いについて。オーウェンは相手に捕まるような走り方をしている一方でルーニーはちゃんと相手の動きを見て背後を取っている、と。そういったことを一つひとつ教えてくれました。これは僕が勝手に言っているだけなんですけど、「風間塾」に弟子入りしなきゃと思いましたね。本当に弟子にしてもらったわけではないですけど(笑)。逆に二宮さんは、風間さんにいつから取材しているんですか?
二宮 それこそスポニチのサッカー担当時代なので木崎さんと同じころですよね。当時スポニチで解説をやってもらっていましたから、何度か担当させていただいて。ただもっとこの人の話聞きたいなと思うようになったのは、2007年にNumberの契約編集者になってから。いつインタビューしても、風間さんの言葉は勉強になりました。取材が終わった後、一緒に食事をさせていただくケースもあって、そこでサッカーの話をいろいろと教わりました。木崎さんはそれこそ僕なんかより何百倍も多かったと思うけど(笑)。
木崎 いやいや、そんなには(笑)。そういうときにもっと深い話を聞けたりもしますからね。
二宮 じゃあトイレ休憩を挟んで、次回は「木崎さんだから知る風間さん」から再開しましょうか!
2021年12月公開