出席者
ボクシング・ビート編集長 島篤史
SPOAL 渋谷淳
SPOAL 二宮寿朗
33歳でボクシング・ビート編集長に指名される
渋谷 いろいろないきさつがあって島くんはワールドボクシング(ボクシング・ビートの前身)に入ったわけだけど、編集長になったのはいつでしたっけ?
島 マニー・パッキャオ×ミゲール・コットと亀田興毅×内藤大助を一緒にやったときだから2010年1月号からですね。
渋谷 パッキャオがイケイケのころだね。大物を次々に撃破してあのプエルトリコのスター選手、コットをも圧倒。それが亀田が内藤を下した試合と一緒の号というのはなんだか面白い(笑)。それにしても、もう10年以上も編集長をやっているんだね。
島 ほんとですよね。引き受けたときは1、2年で終わると思ってましたから。
二宮 そうなの?
島 そうですよ。「雑誌の売り上げはよくない」と版元から言われていましたから。前田のあとで自信もなかったですし。
※版元とは出版元。ボクシング・ビート編集部は編集のみを100%請け負う編集プロダクション。
二宮 前田衷さんから編集長を引き継ぐというプレッシャーは大きかっただろうね。前田さんはもともとボクシングマガジンの編集長で、そのあと現在のビートにつながる新たなボクシング雑誌を立ち上げて、ボクシング界では知らない人がいない名物編集長だから。あの博覧強記ぶりはスポーツ専門誌の“ザ・編集長”という感じがしたなあ。僕も前田さんにはたくさん教わりました。
島 だから編集長になったときは何とか2、3年くらい保てばいいかなと。なんて言うか「かっこがつく」くらいはやりたいという気持ちでした。
渋谷 それで11年はすごいと思うんだけど、やっぱり編集者から編集長になっての醍醐味というと表紙づくりなのかな。雑誌の顔である表紙を何にするかの権限は編集長にあると思うんだけど?
島 任された感はありましたね。もちろん相談はするんですけど。表紙に関してはうまくいったことも、そうでなかったこともって、それぞれ思い出があります。
渋谷 パッと思い浮かんだものでいうと、SPOALでも何度も登場してもらっている元WBCバンタム級V12王者の山中慎介のラストファイトなんかは良かったよね。「名王者涙の退場 山中慎介」というタイトルで。2018年4月号だ。
島 あれは写真に頼るところ大ですけどね。山中が退場するところの写真。福田直樹さん(SPOALにも登場の世界的ボクシングカメラマン)の1枚です。
二宮 表紙の難しいところってどういうところ?
島 表紙をどうするかってすごくスリルがあるんですよ。まず読者に受けるかどうか分からないし。けっこうやりがちなのが締め切り間際の試合写真を使おうとしてしまうことなんですよ。
渋谷 より新しい、新鮮な写真を使いたいということ?
島 そうなんです。絶対に新しい試合の写真のほうが頭の中で鮮明なんですよ。今月はこの試合かこの試合の写真を表紙にって考えていたとしたら新しいほうを使いたくなっちゃうんですよね。もちろん新鮮なほうがいいというのはあるんですけど、そこは写真のクオリティーとか、試合の価値とかを冷静に総合的に判断して決めなくちゃいけないと思います。
専門誌はちょっとダサイくらいがかっこいい!
渋谷 専門誌の表紙は試合が多いよね。最新号は矢吹正道が寺地拳四朗からWBCライト・フライ級王座を奪った試合の写真だ。
高須 う~ん、これはトリミングし過ぎですね(いきなり高須カメラマンが乱入)。
二宮 編集長の前でよくそんなこと言えるね。迫力があってインパクトのある写真だろ!
島 いやいや(笑)、いい写真だから使ったんですけど粗いは粗いんですよ。というのも試合会場の撮影環境が悪くて、これ以上はどうしようもなかったんです。カメラマンのせいじゃないんです。その悪条件の中でもこれだけの写真を撮ってもらったので表紙に使いました。
渋谷 高須くんなんか表紙の写真をいっぱい撮ってきたんじゃない?
高須 いっぱいじゃないですけどありますね。
渋谷 ちょっと話が横道にそれちゃうけど、カメラマンは表紙の写真って狙っていくの? 狙って撮って「よし、これ表紙いただき!」みたいな。
高須 そういうときもあります。たとえばサッカーのワールドカップ2018年ロシア大会で、日本は決勝トーナメントの1回戦でベルギーに負けたんですけど、表紙になるような写真は(日本代表の顔だった)本田圭佑だろうと思っていたので、負けたあとの本田の表情を追って、最後に乾貴士の体をポンポンと優しく叩いたシーンを撮りました。Numberの話ですけど、表紙で使われるとしたらこれしかないと思ってたら別冊の表紙になりました。
二宮 Numberは表紙がダメでも、次に扉があったり、表紙っぽいところで言えば電車の中吊り広告があったりするんですよ。だから表紙で落選してもそっちがある。カメラマンはそこを狙ってますね。
渋谷 ボクシング専門誌はNumberの表紙とはだいぶ違うよね。なんて言うか「かっこいい」ということで言えばNumberにかなわないかもしれないしけど、専門誌らしい表紙が売りになるというか、それがまたコアなファンに愛されるのかなと思う。
島 そうですね。かっこよさは二の次じゃないけど、これはビートで「キャンバスの匂い」を連載してくれていた藤島大さんから言われたことなんですけど「ちょっとダサイくらいがかっこいい」と(笑)。
二宮 それはすごく思う。Numberはグラフィックだからああいう感じでとことんかっこよくやるんだけど、専門誌は最新号みたいに「死闘」とか、ストレートに心をえぐるような言葉のほうがいいと思いますけどね。余韻を残す感じよりも何を言わんとするかよく分かっていいと思う。
島 ありがとうございます(笑)。
2021年11月公開