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山を歩こう。写心家 山口裕朗 VOL.2

相模湖から高尾山ルートでデビュー 男女3人山歩き

2011年初夏の頃、私は「山に登ってみよう」と約束した横田茂氏(以下シゲル氏)と山登りの計画を考えました。

夏でも雪が残っていそうなゴツゴツした山ではなく、ここは謙虚に高尾山(標高599m)から行ってみようと考えたのですが、小学校低学年の遠足が高尾山だっただけに、大人になった今、それだけでは物足りません。もちろん、ケーブルカーやリフトを使わずに登れば、それなりの運動にはなりますが、高尾山に登るという事だけを目標に歩く気にはなりませんでした。

地図を眺めながらあれやこれやと考えていると、相模湖から明王峠・景信山を経由して高尾山まで歩くルートが良いのではないかと思い、シゲル氏に提案してみると了承してくれました。

京王線で明大前まで戻ってビールを飲むという楽しみも残しつつ、我ながら良いことを思いついたものです。

決行は梅雨入り前の6月初旬の平日に決まりました。
どうせなら道連れも増やそうと、平日でも参加してくれそうなフリーランスの職業の人で、山に登りそうな顔を思い浮かべると、太陽のような笑顔の20代の造形アーティスト、マリコが浮かび、誘ったら参加してくれました。

こうして、山登りデビューの日が訪れました。
初ハイキングとなるこの日の装備を記しておきます。

【初ハイキング装備一式】
◇靴 主に長旅の時に履いてきた、ノースフェースのトレッキングシューズ(登山での使用は北八ヶ岳縦走の一度だけ)。
◇アンダーウェア 吸汗速乾性のあるノースフェースのロングスリーブシャツの上にコットンの半袖シャツ。
◇上着 休憩中などに体を冷やさないために着るノースフェースのジャケット。
◇ボトムス テルヌアのストレッチパンツ。
◇バッグ グレゴリーのデイバッグ。
◇雨具 ノースフェースのレインウェア。
◇帽子 頭に手ぬぐい。
(ノースフェイスの物が多いのですが、日本ではゴールドウィンが日本向けに作っているノースフェイスのデザインと機能の高さが好きで、20代の頃からバイクに乗る時も旅をする時も、ノースフェイスを愛用しています。)

森歩きは長靴ですが、それがトレッキングシューズになり、休憩中の上着がダウンジャケットから薄手のジャケットになった以外は、狩猟取材での森歩きと同じような感じです。
この時はまだ写真をバリバリ撮ってやろうという気は無く、簡単な撮影だけできるように、Nikon D700に24-70mm f2.8という機材をバッグに入れました。

販路のない撮影の為に、重たい機材を背負う気も湧かず、あくまで目的は山歩きです。アイフォンのカメラ性能が今のように高繊細だったら、一眼レフさえ持っていかなかったかもしれません。

マリコは東京都で最も高い雲取山(標高2017m)に登ったことがあって、私とシゲル氏よりも経験者だけに、ハイカーらしい出立ちです。シゲル氏は、カジュアルなボタンダウンのシャツにトレッキングシューズ。奥様から借りたという可愛い赤のデイバッグとしゃれています。

アンダーウェアの重要性とご褒美の格別ビールと

相模湖駅で合流し、元気いっぱいにスタート!
駅から10分ほど歩き、与瀬神社から山に入ります。
蒸し暑い森の中を登りはじめると、『トットットットッ』と心臓が激しく鼓動を打つ音が身体中に響きます。

「ああ、生きてるんだな、俺は。」と生を実感。
順調に明王峠に到着。
木に囲まれた稜線に出ると、いくらか涼しく感じます。
静寂の中に時折小鳥のさえずりが聞こえ、なにかとルールやマナーを意識しなきゃならない過密した都会からの開放感が気持ち良い。

危ない場所もなく、景信山まで約2時間半をかけて歩き昼食としました。
山の上で温かな食事ができる幸福感をこの時はまだ知らず、全員持参したおにぎりをほおばりました。

気が付くと、まだピンピンしているマリコと私をよそに、シゲル氏の元気がありません。どうやらアンダーウェアがコットンで、身体が冷えてしまったようです。

今回の行程での最高峰、景信山は標高727m。
標高が100m上がると、気温は0.6度下がると言われていますから、平地に比べて4度くらいは涼しくなっていたと思います。また、濡れた肌着は真夏でも体温を奪うのです。

それでもシゲル氏はおにぎりを食べてどうやら回復し、山歩きを再開すると小仏峠を越えて高尾山に無事到着。
高尾山頂には飲み物の自販機だけでなく、食事処やら何やらそろっていて、皆でソフトクリームを食べました。
山の中で常温では無いものを口にできる事がとても贅沢なのだと、ソフトクリームの冷たさと甘さが身体に染み渡ります。
山頂からは、ケーブルカーやリフトは使わずに下山しました。

下山中からシゲル氏の口数がめっきり減ります。
前年歩いた北八ヶ岳の時の自分がそうでしたが、身体に異変がおこると、口数が少なくなります。
シゲル氏の口数がめっきり少なくなったのは、あとから知ったのですが、膝の痛みと戦っていたからでした。

下山して、京王線で皆の家が近くなる明大前まで戻り、居酒屋でビールをグビッグビッと流し込みました。植田まさしの漫画に登場するおっさんが漏らすような”グビグビプハ〜〜〜”。こんな格別なビールはありませんでした。

股関節痛に耐えたシゲル氏はより一層美味しく感じたのではないでしょうか。
懸念していた私の膝は、武藤敬司の世界に「おいで〜」とささやくように少し疼いていましたが、なんとかそっちの世界には行かずにすんだようです。
初めてのハイキングを終え、私の心には、「また山に行きたい!」という気持ちが不思議と湧き起こっていたのでした。

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2021年9月公開

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