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しぶさんぽ シーズン9 VOL.1

千葉県佐倉市で“ミスタープロ野球”を味わう

辛うじて雨をまぬがれた6月某日、東京からJR総武線で船橋、京成電鉄に乗り換えて京成佐倉へ向かう。北口に出てみるとランニング姿の少女の銅像が私たちを迎えてくれた。

佐倉といえば陸上の指導者としてその名を全国にとどろかせた小出義雄さんだ。あのサングラスとひげ、豪放磊落という言葉が実によく似合う笑い声でご存知の方も多いことだろう。2019年に80歳で亡くなった小出さんは佐倉の出身であり、千葉県立佐倉高校の教員も勤めた。

小出さんの教え子は、マラソンで92年のバルセロナ五輪と96年のアトランタで銀メダルと銅メダルを獲得した有森裕子さん、97年世界選手権優勝の鈴木博美さん、そして2000年のシドニー五輪で金メダルに輝いたQちゃんこと高橋尚子さんらメダリストがズラリと並ぶ。2001年には佐倉アスリート倶楽部をこの地に設立し、後進の指導に尽力した。

さあ、最初のターゲットは岩名運動公園だ。有森さんと高橋さんはこの公園を起点に佐倉の町を毎日走ってオリンピックのメダルに結びつけたという。私と近藤カメラマンは駅から公園まで「徒歩25分」という表示に思わず目を見合わせ、ちょうどロータリーに滑り込んできたバスに乗り込んだ。何しろ本日はマラソンがテーマなのだ。ペース配分は何より大切にしなければならない。

住宅街を抜けて田園風景の中をしばらく進むと、こんもりと盛り上がった岩名運動公園に到着する。少し山登りのような気分で公園の中に入っていくと、最初に待っていたのは陸上競技場ではなく野球場。球場の名前はなんと長嶋茂雄記念岩名球場だった。2013年、あの天下の長嶋さんが佐倉市市民栄誉賞を授与したことに合わせ、球場の名称を変更したのだという。

長嶋茂雄――。

そう、昭和が生んだ最大のスター、“ミスタープロ野球”こと長嶋さんは佐倉の出身である。現在、読売ジャイアンツ終身名誉監督の称号を持つミスターも何と85歳になった。もう平成生まれでは「長嶋!」と言われてもピンとこないかもしれない。五十路を迎えようという私でさえ、「我が巨人軍は永久に不滅です!」の引退式は見ておらず、勝負強いバッティングも、華麗な三振も、必要以上に派手な守備も生で見ていない。記憶にあるのは背番号90の監督時代から。それでも小学生のころ、場内アナウンスのウグイス嬢のものまねと言えば、「よばん、サ~ド、ながしま~」が定番だった(ような気がする)。

ミスターは永久に不滅だった

その長嶋さんは正確には佐倉市ではなく、お隣の旧印旛郡臼井町の出身で、お父さんは臼井町の役場で働いていたのだとか。この臼井町は現在、併合されて佐倉市となっているので佐倉出身で問題はないだろう。

長嶋さんは地元の佐倉高に進学して野球に没頭。甲子園には出場できなかったものの、その実力は評判を呼び、東京六大学の立教大に進学する。当時、1950年代はプロ野球よりも大学野球のほうが人気を博した時代だ。長嶋さんは立教でスター選手となり、巨人に入ってプロ野球を国民的娯楽へと発展させたのである。

さて、私たちが訪れたこの日、主のいない野球場はひっそりと静まり返っていた。周りを歩いていると掲示板に貼ってあるポスターが目に入る。近づいてみると『2021年、伝説は続く…フォトコレクション長嶋茂雄 栄光の軌跡~ミスターが選んだ厳選写真~』というタイトル、そして事前予約受注販売を知らせる情報が。写真は本人が選んだというのがすごいではないか。それにしても1974年の現役引退から47年、監督引退からも20年を数えるというのに、写真集が発売されてしまう長嶋さんはやはり“永久に不滅”である。

その場を離れて公園の奥に足を向けると「スポーツ資料館」という建物が目に入ってきた。恐る恐る扉に手を掛けてみるとなんと開いている! 「こんにちは~」と声をかけたら、係の人が出迎えてくれた。ただし、「あら~、今日はあんまり見るものがないのよね~」と申し訳なさそう。というのも長嶋さん関連の展示品の多くは球場に移動しているらしく、球場にある展示コーナーも毎日は開けていないのだという。

そんなやりとりをしたあと、私たちは「せっかくなので」とスポーツ資料館を見学させてもらった。資料館というだけあって、スポーツ関連の書物がけっこうあり、オリンピックに出場する際の高橋尚子さんへの寄せ書きとか、千葉県東金市出身のレスリング五輪銀メダリスト、永田克彦さん(お兄さんがプロレスラーの永田裕志さん)の写真も飾ってあった。そうした中で私の目を一番引いたのは長嶋さんのパネルだった。中学校時代、成人式、結婚式、V9記念、さらには長嶋茂雄記念岩谷球場と名称を変更したときの式典の写真などが飾られている。展示品は少なくても、けっこう楽しめてしまった。

さあ、このあたりでミスターには別れを告げよう。私たちは隣接する陸上競技場、その名も小出義雄記念陸上競技場に足を向けた。

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2021年7月公開

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