「親父が言ってた、夢は人生の宝物だって」
皆さんご存知、映画「ルディ 涙のウイニング・ラン」(1993年)からの一言。
実在のアメリカン・フットボール選手ルディ・ルティガーが自らの経験を元にした持ち込み企画。
名門ノートルダム大学のアメフトチーム『ファイティング・アイリッシュ』でプレイするという幼い頃からの夢に向かって、努力に努力を重ねる青春映画。
劇中の設定では、身長160センチ体重55キロ。そんな小柄な主人公ルディを演じるのはショーン・アスティン。先日の金曜ロードショーで話題になった映画「グーニーズ」(1985年)の主役マイキーを演じた少年と言えばおわかりではないでしょうか。
小柄というハンデを背負いながらもアメフトに挑戦する姿は、喘息を持ちながらも海賊の宝探しに向かったグーニーズの続きものと言っても違和感はありません。あのマイキーがこんなに立派になっちゃってと親戚のオジサン目線で見てしまいます。
「グーニーズ」
劇場まで足を運んだ小学生の私はマイキーと同じ小児喘息を患っており、勝手に親近感を持っていました。ステロイドの吸引剤を欲しくなったのは、中二病がもう発動していたのでしょうか。
ファミコンソフト「グーニーズ」も非常に完成度が高く、隠しアイテム、隠しキャラのさきがけとなった作品としても有名。コナミマンは出ましたか?
名QBジョー・モンタナの母校でもある、アメフト超名門校「ノートルダム大学」
前置きから横道にそれっぱなしですみません。
今回は映画の話でもファミコンの話でもなく、東野圭吾原作の『片想い』(文藝春秋2001年)をご紹介します。
大学の元アメフト部の部員たちの様々な想いが交錯する長編ミステリー。
年に一度行われるアメフト部の同窓会で、主人公の西脇は当時の女子マネージャー、日浦美月と十年ぶりに再会する。アメフト部のもう一人の女子マネージャー、理沙子と結婚していた西脇は美月を自宅に招き入れるが、そこで衝撃の事実を告げられる。ひとつは自分は性同一性障害で男として生活していること。そしてもうひとつは殺人を犯してしまったこと……。
十年の歳月はアメフト部員それぞれに流れており、かつての仲間を助けたい気持ちと、目の前の現実の人生とが入り交じる。
この本のおすすめポイントは、元部員達の性格がポジション毎に表現されていること。
主人公である西脇はクォーターバック。チームの司令塔でもあるポジションのまま、リーダーシップを発揮し、様々な謎の解決に奮闘します。
ポジションの役割について優しく説明してくれているので、アメフトに詳しくない人も一読した後のアメフトの試合は非常に分かりやすくなっていると思います。
また、この作品はトランスジェンダーが非常に肝というか、メインテーマと言っても過言ではない。
発表された当時だと、今ほどこのテーマが取り沙汰される時代でもなかったと思います。
数々の題材を扱っている東野圭吾ですが、その慧眼には恐れいります。
スポーツ界においても最近ではトランスジェンダーを告白するアスリートも増えてきました。
男女平等とはいいながら、やはり競技をする上では科学的に男女は区別しなくてはならない。
難しい問題かもしれませんが、性別を超えた“人間性”について、これからの時代は考えなくてはならない事でしょう。
個人的にちょっと驚いたのは、主人公西脇はスポーツライター、妻の理沙子はカメラマンと、SPOALの台所事情と同じ設定。
様々な謎を解き明かそうと、探偵ばりに西脇は駆け回りますが、その都度スポーツライターとしての取材をキャンセルするのが、同じフリーの立場としてちょっと心配になりました。
エンディングはもちろん東野圭吾節が炸裂。
タイトルの「片想い」、表紙に描かれた「メビウスの輪」。どちらも深い意味が隠されています。
スポーツと恋愛とミステリー、さらにトランスジェンダーが絡み合ったこの作品。
読んでおいて損はない一冊です。
終わり
―おまけ―
久しぶりの一度は言ってみたい業界用語シリーズ ~アメリカンフットボール編 その1~
「タイトエンドがいい働きしている」
2021年6月公開