このドラマの凄さは「ラグビーファースト」だったこと
<俺も学生時代、ラグビーやっておけば良かったな>
いや、本気で思いましたよ。近年で私が最もハマったスポーツドラマと言えば、2019年7月からTBS系列で放送された池井戸潤さん原作の「ノーサイド・ゲーム」です。毎週日曜夜9時が楽しみで仕方ありませんでした。
「半沢直樹」「下町ロケット」など池井戸作品のファンは多いと思います。僕もその一人でしたから、期待値は最初からマックスでした。それも取材させてもらっていた廣瀬俊朗さん、齊藤祐也さんが出演すると聞いたら見ないわけにはいきません!
池井戸作品らしく、大手自動車メーカーでの権力闘争や企業買収などビジネス話を絡めつつ、低迷していた「アストロズ」を大泉洋さん演じる君嶋隼人がGMとして再生させていくというストーリー。ラグビーをまったく知らないが、ビジネスマンとしては優秀な君嶋が、まさに体当たりでラグビー部員とぶつかっていくわけです。
このドラマが凄いのは、まさに「ラグビーファースト」だったこと。廣瀬さん、齊藤さんたち元日本代表クラスがプレーするわけですから、タックル練習のシーン一つ取ってもそりゃあ迫力があります。原作の面白さもさることながら、ラグビーの迫力と魅力を存分に伝えてくれた意義も大きかったように思います。
ラグビーを知っている方なら、東芝ブレイブルーパスのグラウンドで撮影しているんだなって分かります。その東芝の中心だった廣瀬が浜畑譲という準主役のような形で出ているのだからたまらない。
以前、スペシャル記事「突破の人」で齊藤さんに登場していただいたときに、撮影の話を少し聞かせていただきました。コワモテのナンバー8、安西信彦役。ゴツい体と威圧的な目で存在感を出していました。普段は優しい人だけに、しっかりと役に入っていた感じがありました。
こだわったのがコンタクトシーンだったそうです。日本代表の先輩、田沼広之さんが相手だったこともあって遠慮なくやらせてもらった、と。
齊藤さんは言います。
「経験者を集められているのは、そういうことなんだと田沼さんも僕も思っていましたから。僕らのコンタクトシーンくらいから、みんな遠慮なくやっていった感じがありました。撮影が終わったのは、最終回が放送される2日前。最後は泣いてしまいました。みんな一生懸命にやったので終わる寂しさと、ホッとしたのと、感動したのと……」
このドラマの監督を務めた福澤克雄さんは、慶応義塾大学ラグビー部出身。高校日本代表や大学日本一を経験している「ホンモノ」ですから、ラグビーのディティールを追求したのも理解できます。そこに応えようとした、俳優陣。それとともにラグビーに対する深い愛情が観るほうにも伝わってきました。出演している人が、泣いちゃうほどの一体感。まさに日本代表のスローガン「ONE TEAM」の世界があったんだなと感じました。
このドラマは、直後に開催されるワールドカップの盛り上げにも一役、買いました。ジャッカルやオフロードパスも、「ノーサイド・ゲーム」で予習できた人もいたのではないでしょうか。
そればかりでなく、スポーツチームが地域に密着していく大切さなども伝えています。サッカーをそこまで敵役にしなくても、とは思いましたが。
そして現役を引退した演技未経験の元アスリートたちが、スポーツを題目に置く作品で俳優として活躍するというのも非常に素晴らしい試みだったと感じています。
浜畑ぁ~、頑張れぇ~。
何度、心のなかでそう叫んだことか。
今年2月、Numberの取材でキャプテン論をテーマに、廣瀬さんに久しぶりにインタビューする機会がありました。
「浜畑さんはどう思いますか?」
思わず一度、出ちゃいましたね、「浜畑さん」と。リモートで聞きにくかったのか、それとも聞き流してくれたのか。スルーされたので、胸を撫でおろしました。
僕に対する影響度満点。それが「ノーサイド・ゲーム」なのです。
終わり
2021年6月公開