昨年の2月末に私はライターの山手とニューヨークの街に降り立ちました。コロナが世界で大流行するギリギリのラインでしたので渡米できるのかできないのか、または帰国できるのかできないのか?出国前も滞在中も不安であったことを思い出します。無事帰国できたと思ったら、家族からは家に帰ってくるなと言われオフィスで1週間寝泊まりしたことはここだけの秘密です。そんなニューヨークで興味を持ったことが一つ。それがスポーツビジネスでした。
アメリカでは生活の一部にスポーツが溶け込んでいると言っても過言ではないくらい身近に感じることができました。日本では、浦和レッズのショップが浦和駅前ぐらいにしか存在しておりませんが、ニューヨークでは街全体で数多くのヤンキースのショップを見かけることができます。それだけ街全体にスポーツが溶け込んでいて街全体でスポーツを盛り上げようとする姿勢が感じられました。
グッズの販売利益はどのくらいなんだろう?日本とは比較にならないほどなんだろうなぁ。
と、想像しながら街を歩いたものです。それからスポーツとお金に関して興味を持つようになり、NFLでのTVコマーシャルの金額を調べてみたりTVの放映権などをWikiで調べるようになりました。
そんなニューヨークから帰国してきた直後に家に帰れずオフィスで寝泊まりしている間に鑑賞した映画、『コンカッション』をご紹介します。
スポーツビジネスの闇
映画『コンカッション』はウィル・スミスが医者の役として、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の闇と戦っていく実際にあった話を映画化したものです。
アメリカンフットボール。それは全米で最も人気のあるスポーツで男と男のぶつかり合い。まさに格闘技です。私は子供の頃、よく父親に秩父宮ラグビー場に連れていってもらいラグビーの試合を観戦しました。その延長線上でラグビーに似たアメリカンフットボールにも興味を持ち始めますが、私は痛いことが嫌いですので観戦が専門。東京ドームにもアメフトを観戦しに足を運んだ記憶がございます。生で見るとやはり迫力が違います。激しくぶつかり合い、激しいタックルで相手の攻勢を止めると大歓声。観客は激しいぶつかり合いを求めて相手チームを煽ります。
そんなアメリカンフットボールですが、激しくぶつかり合うが故に引退後の選手に異変が起き始めます。一人の実在する有名アメフト選手であったマイク・ウェブスターが鬱病、認知症、錯覚、幻聴などを発症してしまい、しまいには心臓発作で死んでしまいます。その検死を担当したのがウィル・スミス扮するベネット・オマル医師でした。体には全くの異常が見られない。脳にも全く異常が見られない。検死を担当する医師として何も原因が特定できない状況でしたが、マイクが精神病を患っていたということで脳の一部をサンプルとして保管します。何かしら原因を掴もうと夜な夜な顕微鏡を覗いていると一般人の脳とはあきらかに違う部分が見つかったのです。
キラータンパク質。
脳が激しく揺さぶられ脳震とうを幾度も起こすことにより発生する物質で、この物質が脳に蓄積することで精神病を患ったり、認知症を発症することが分かったのです。オマル医師は医学雑誌にこの症例を発表することとなりました。
その医学雑誌を見たNFL協会は激怒します。世間からアメリカンフットボールが危険であると思われてしまうことを嫌ったのです。莫大なお金が動くアメリカンフットボールの興行。1試合平均で60,000人以上がスタジアムに足を運び、グッズ、飲食などにお金を落とします。そしてテレビの放映権料で莫大な利益を得る。それがイメージの悪化により、NFLビジネスの傘の下に収まっている数万人の雇用が崩れてしまうことをNFLは恐れたのです。オマル医師を雇っていた所長は私的流用などの罪に問われ起訴。オマル医師自身も地方に飛ばされてしまいます。ですが、オマル医師は諦めません。TVでNFLに宣戦布告をします。
時が経過しNFL協会の役員であった元NFL選手も症例を発症して自殺をしてしまうことから急展開。NFLの選手団もオマル医師の話を聞く姿勢をやっと見せました。そして、NFL協会は引退選手から集団訴訟を起こされ、症例を認めざるを得なくなり示談で解決をします。
ですが、その示談内容に含まれていた内容として「脳震とうによる悪影響について、いつからどの程度、体に影響があるのかを知っていたのか。」を発表しないことを盛り込んだ上で示談を成立させていました。
こちらがNFLの最大の闇でございます。
脳への影響度を知っていたが、巨大な産業となっていたNFLの試合を止めることができなかった。選手の安全性は二の次。まずはお金を稼ぐこと。そして雇用を生むこと。アメリカの経済に影響を持つこと。
ビジネスが選手を危険に晒してしまったということです。
選手の安全性。これはないがしろにしてはいけないと思います。私の好きなF1は死に直結するスポーツですのでアイルトン・セナの死亡事故以降、安全性が非常に高まっています。それでも2014年の日本グランプリ(鈴鹿)ではジュール・ビアンキというフランス人ドライバーがレース中の事故で頭部損傷の為、亡くなっています。ビアンキの死後には、ヘイローというドライバーの頭を守る格子ができた結果、頭部損傷という事故は起きていません。F1は全世界にTV中継され、「死」が見えてしまうスポーツだからこそ選手の安全性に力を入れているのです。
映画のラストシーンでは、アメフトの練習をする高校生をグラウンド脇から見守るオマル医師が映ります。こちらが非常に印象的で「安全性はまだまだなスポーツ」というメッセージが込められているとも感じられました。
終わり
2021年6月公開