DANGANと言えば、やはりトーナメント。
C級の4回戦トーナメント、B級の6回戦トーナメントなど手掛けてきたなかで、2019年に入るとDANGANは新たに3つのトーナメントを開催する。
一つが元WBC世界バンタム級王者・山中慎介をアンバサダーにした「GOD’S LEFT バンタム級トーナメント」。もう一つが元WBA世界スーパーフェザー級王者・内山高志をアンバサダーにした「KOD賞金トーナメント」、そして3つめが「はじめの一歩30周年記念フェザー級トーナメント」だ。
DANGANの収益は興行のチケット収入がほとんどを占める。注目を集めるトーナメントを開催することで大会スポンサーを獲得していく狙いもあった。
古澤は苦笑いを浮かべて言う。
「ほぼ同時期に始めてしまったんで、トーナメントを回すだけで大変になってしまいました。7月に『GOD’S LEFT』10月に『KOD』そして11月に『はじめの一歩』が始まったので、準備に時間を取られてしまってスポンサー営業ができなかったんです。でも山中さん、内山さん、森川ジョージ先生や講談社さんのご協力もあって、反響は凄くありました。課題としてはプロモーションのところですよね。ボクシングにあまり興味がなかったライト層にもリーチできると感じたので、次からは外にもっと発信していきたいと思っています」
新たな仕掛けをしている最中に、ボクシング界にコロナが襲った。2020年2月を最後に興行全体がストップし、再開は7月まで待たなければならなかった。「はじめの一歩30周年記念フェザー級トーナメント」決勝戦も延期になっていた。
クラウドファンディングで開催資金を募り、リターンには作者である森川ジョージさんの解説つき「BOXING RAISE」視聴権、限定Tシャツ、観客席に設置される応援アバターパネルなどを展開して、目標金額の500万円を突破した。これは単純に資金面の狙いだけでなく、大会の告知という意味合いもあった。
会場には応援アバターパネルとして「はじめの一歩」のキャラクターを170体ほど観客席に並べた。人数制限が掛かるなら何か違うアイデアで会場を盛り上げることができないかと考えて、出てきたアイデアだ。
「サッカーのブンデスリーガ(ドイツ)でサポーターの写真が入ったパネルを目にして、これはいいアイデアだなと思ったんです。これを『はじめの一歩』でやったら面白いんじゃないか、と(作者の)森川先生、週刊少年マガジン編集部さんに相談したところ、こころよく許可をいただきまして。お客さんの座らない席にパネルを置いて、キャラクターがソーシャルディスタンスを守ってくれているという立てつけにしたんです」
優勝者には賞金100万円と、『はじめの一歩』に登場する権利という作品のファンにとってはたまらないプレゼント。メディアにも大きく取り上げられた。
コロナ禍がターニングポイントになった。
いいカードを組むだけの時代は終わった。ライト層にも関心を持ってもらえるような企画を打ちたいという思いが強くなった。と同時にボクサーの育成にも目を向けていく必要性も感じた。
「BOXING RAISEはコロナ禍にあっても配信するたびに(視聴数)が伸びています。ボクシングのコンテンツに将来性はあるとあらためて感じましたし、コンテンツを増やしていくにはやっぱりボクサーが出てこないといけない、と。コロナ禍になってボクシングをやめる選手も出てきています。そうなると当然、マッチメークもしづらくなってくるわけです。試合をする場をつくるのがDANGANでしたが、ボクサーを生み出すところにも協力していかなきゃいけないと考えるようにもなりました」
行動の人はまたも動く。
中小ジムのボクサーを対象に合同トレーニングを企画。外部からフィジカルトレーナーを招き、フィジカル強化の指導を定期的に行なうようにした。
また興行の数を減らしても、オール4回戦の興行は削っていない。コロナ禍のボクシング興行は試合数自体減らさなければならず、そうなると前座のカードを外していくしかない。それゆえDANGANの興行は貴重なのだ。4回戦ボクサーの環境を良くしていくことが明日の日本ボクシング界のためになると古澤は信じている。
本当は大きな仕掛けを打つはずだった。
5月22、23日の2日間にわたって墨田区総合体育館で3興行、7つのタイトル戦と「ボクシング祭り」と題する無料で参加できるイベントを予定していた。ボクシングの魅力をコアファンに届けることができるし、ライト層にもリーチできる。だが新型コロナウイルスの感染拡大によって興行、イベントともに中止を決断せざるを得ず、タイトル戦もすべて延期となってしまった。だが2年連続中止という憂き目にも、古澤はひるんでいない。
「これは絶対にやりたいんです。そもそも東京オリンピックのボクシング会場が墨田区にある両国国技館のため、区に企画を持っていったら採用された経緯があります。でもDANGANとしては毎年のお祭りにしたいという思いがあるので、来年にリベンジしたい。もっと大きなスケールでやりたいって思っています」
倒されても、いや二度倒されても起き上がる。ボクシング経験のない異色の「興行仕掛人」は、コロナ禍に対してファイティングポーズを取り続けている。
プライベートでは中学時代の同級生と2013年に結婚し、小学1年生の長男と2歳の長女を持つパパ。なるべく家には仕事を持ち帰られないようにしているとか。
DANGANの未来に向けて、古澤の鼻息は荒い。
「ここ1、2年、いろんな方が手伝ってくれるようになって、これまではできなかったこともやれるようになってきています。ブランディングもそうですけど、やっぱり選手育成に力を入れていきたい。このスポーツはちょっと遅く始めてもトップにたどり着けると思うので、きっかけづくりやトレーニングの環境づくりを考えたいですね。(興行面で言えば)アジアにも広げていきたいというプランもあります。選手の交流を盛んにしてアジアの国々と連係していけば、可能性がもっと広がると思っているので。やりたいことはいっぱいあります」
ボクシングとの出会いはきっと運命だったに違いない。
まだまだいろんな可能性がある。
若き興行仕掛人が、その水先案内人となる。
ボクシング興行仕掛人 終わり