100mから2日後、200m予選がありました。200mの大きな特徴はカーブがあることです。トラックの第3コーナーからスタートして、第4コーナーでスピードを落とさず、最後の直線で一気に加速していきます。そこで僕は第4コーナーの出口付近からコーナーを駆け抜ける姿を狙うことにしました。
あれ、、なんだかイマイチな気が、、
狙い通りに撮ったつもりでしたが、写真のあがりがイマイチでした。なんでだろうか?? この日の撮影が終わったあとに作業しているときに、このハマってない感を突き止めるために分析してみました。
そこで分かったのは2つ。ひとつはボルトが速すぎて他の選手と差が開きすぎていたことによる構図の問題でした。こればかりはフォトグラファーにはどうすることもできません。できることがあるとすれば、差がつきすぎる前のスタート直後を狙うくらいでしょうか。
そして、もうひとつはズームを使ったことです。こうした連続写真を撮るとき、被写体の動きに合わせてズーム機能を使い、全身が写るように撮るのはプロとして求められる能力ではあります。しかし、今回、僕が撮るべきなのはプロっぽい写真ではありません。あくまで僕だけのボルトです。充分に意識していたつもりでしたが、気がついたら置きに行っていた自分がいました。
詳しく一連の写真を調べてみました。1~4コマ目まで焦点距離は200mmでしたが、5コマ目が115mm、6コマ目が105mm、7~9コマ目が95mmでした。200mmで狙い続けていましたが、途中からズームさせて全身が入るようにフレーミングしていたようです。
これはスポーツ写真あるあるなのですが、フォトグラファーには動体視力が求められます。なぜならば、小さなファインダーの中で素早く動く被写体をフォーカスし続けるのには優れた動体視力が必要で、よく見えていればいるほど、より正確に狙い続けることができるからです。
もともと少年野球経験者で当時から選球眼が皆無だった僕には人並み以下の動体視力しかありません。写真だけ見ると分からないと思いますが、4コマ目はボルトがフレームアウトするギリギリに見えていたはずです。だからこそ、僕はビビってズームアウトさせてしまったのです。
翌日、200mの準決勝が行われました。準決勝は3レースあり、ボルトは最終組でした。これはチャンス。ということで、最初のレースで昨日の反省を活かすことにしました。それがコチラ。
キレイに横並びの瞬間が撮れました!
意識したのはズーム機能を使わないこと。それだけです。このときは200mm固定で試しました。準決勝にもなれば走力の差がなくなってくるので構図的にも申し分ない写真が撮れました。この成功体験を第3レースに反映させて撮ったのがコチラです。
いい感じになったのでは!!?
このときの焦点距離は142mm固定でした。本当は135mmにしたつもりでしたが微妙にズレてしまったようです。200mmにしなかった理由は、5コマ目以降のように駆け抜ける横姿を狙いたかったので、192cmという彼の身長を考慮した結果です。ズームを固定したことで撮り始めは少し中途半端な構図になっていますが、一番撮りたかった駆け抜ける瞬間ではフレーミングに迷いがなくなり、構図的にもノートリミングで使える写真が撮れたと思います。
それまでも薄々感じていたことですが、撮影をするとき僕はついつい欲張ってしまいがちです。このときで言えば、予選でコーナーの入り口を200mmで捉えて、駆け抜けるところも全身で抑えようとしたように。結果として、どちらの写真も構図がイマイチになってしまって、準決勝で撮り直すことになってしまいました。
いい瞬間は本当に一瞬しかありません。欲張ってみたところでたくさんいい瞬間に巡り会えるわけではありません。それならば、本当に撮りたい瞬間だけにフォーカスしていくことこそが、フリーランスのフォトグラファーとしての存在意義なのではないかと、このときそんなことを思ったのを覚えています。
つづくッ
2021年6月公開