満足いく結果の残せなかったプロ野球時代
社会人野球のJFE東日本で活躍する須田幸太は2010年のプロ野球ドラフト会議で1位指名を受け、横浜DeNAベイスターズに入団、8シーズン在籍した。その8年で166試合に登板し、16勝19敗1セーブ37ホールドという成績を残している。プロのメシを8年食べただけでもすごいことだが、本人にしてみると決して満足のいく内容ではなかった。
「8年プロにいて一軍にいたのが3年半か4年くらいです。けがはそんなになかったので実力不足ですね。一軍に上がっては打たれて落ちて、上がっては打たれて落ちての繰り返しでした。5年目にようやく形になって、6年目に3分咲きしたくらいの感じです」
入団当初は先発投手として期待されながら、なかなか結果を出すことができなかった。思うような投球ができず、精神的に追い込まれることも多かった。
「昨日打たれたから今日も打たれたらヤバイな、とか。シーズン中は緊張して吐きそうになることもありました。いったんマウンドに上がっちゃえばいいんですけど、マウンドに立つまでにいろいろ考えてしまいましたね。プロで精神的余裕はまったくなかったです。プロに入るまでは経験したことのないプレッシャーでした」
先発投手として成功を収めることはできなかったものの、途中から救援投手に転向して出場機会を増やした。6年目となった2016年は貴重な中継ぎとして62試合に登板し、チーム史上初のCS(クライマックスシリーズ)出場に貢献した。
須田にとって16年と17年のCSはプロ野球人生の中で思い出深いものとなっている。16年は何より主力選手としてチーム初のCSに出場することができた。シーズン終盤に肉離れのアクシデントに見舞われながら2週間で治してCSに出場した。緊張で吐きそうだった投手も、このときばかりは「打たれたらどうしよう」との思いに一切襲われなかったという。
翌年は調子を落としてペナントレースではあまり活躍できず、8、9月は二軍に落とされた。シーズン最後の2試合で一軍に呼ばれ、与えられた機会で結果を残すと、前年に続いてCSのマウンドに立つ。この年、チームは日本シリーズまでコマを進めてソフトバンクホークスと対戦。第1戦に登板してソフトバンク打線を3人で打ち取った。
「やっぱり日本シリーズで投げたことはうれしかったですね。CSは良かったと思います。もともと短期決戦って好きなんですよ。緊張感があるじゃないですか」
プロでの経験を社会人野球でいかす
翌18年は思うような結果が残せず、須田は戦力外通告を受けた。こうして見るとプロではつらい経験ばかりだったようにも映るが、ハードな世界に身を置く中で、多くのことを学んだのは確かな事実である。須田はDeNA時代を「コーチに恵まれた」と振り返る。
「たとえば岡本克道コーチです。いろいろと怒られもしましたけど、練習にすべてつきあってくれて、コーチの指示通りにやり続けた結果、コントロールが身につきました。木塚敦志コーチにもお世話になりました。技術はもちろんなんですけど、木塚さんは選手の気持ちの上げ方がうまい。激励の仕方がすごく勉強になりました」
活躍できた時期は短かったものの、プロでは優秀なコーチに教わり、何よりマウンドの上で超一流のバッターたちと対戦し、徹底的に鍛えられた。その経験が社会人野球に戻って大いに役立っている。
「客観的に見たら、自分の実力は今よりも大学を出て社会人2年目のときのほうが上だと思うんです。それなのに最初の社会人より2度目の社会人のほうがより通用した。やっぱり経験なんですかね。マウンドに立ったときの余裕が違うんです。たとえばプロではバレンティンとか、山田哲人とか、坂本勇人とか、鈴木誠也とかと対戦してきました。そう考えると何とかなるだろうと思える。そういうイメージでマウンドに立てるんです」。
高校に入ったときは高校3年生がすごいと思ったし、大学に入っても上級生は化け物に見えた。社会人野球でもそれは同じ。1年目は30歳のバッターがとても大きく見えたものだった。キャリアという身にまとったオーラが自分を周りに大きく見せ、逆に自分から見える周りを小さく見せているのだ。
「プロってたとえば年俸500万円の選手と5億円の選手が対戦するんです。ブルペンに選手名鑑が置いてあって、みんなどれくらいもらっているのか分かっちゃう。それでピッチングコーチが『おい、お前は1000万なんだから打たれて当たり前だ。ドーンと行ってこい!』なんて言うんです。振り返ればそういう数字でも、ちょっと精神的に負けていたところもあったと思いますね。社会人に戻ってきたら選手の年俸なんて知らないし、みんな年下だし、そういう意味で優位に立てたところがあるかもしれません」
須田はプロ野球で培った経験をいかし、社会人野球を大いに楽しんでいる。あえて「楽しい」と表現したが、それは須田の偽りのない本音だ。第4回では須田が愛してやまない社会人野球の魅力を語ってもらう。
2021年5月公開