映画も本も「一回見たら十分」タイプと、「繰り返し見る」タイプに分かれる。自分はどちらかと言うと後者に近い。小説は繰り返して読まないが(渋谷淳編集長は読むとか)、スポーツ関係の本は2、3度読み直すことが少なくない。
その意味においてゴールデンウイークにもう一度読んでおこうと思っている本がある。元サッカー日本代表監督でJ3、FC今治の岡田武史会長が2019年12月に出版した「岡田メソッド」(英治出版刊)だ。2014年にバルセロナのメソッド部長であったジョアン・ビラと出会い、「16歳までに身につけさせるプレーモデルをつくる」と心に決め、4年掛かりで構築したメソッドをもとに完成させた、言わばサッカー学術書である。300ページにも及んでいる。
メソッドづくりに携わった吉武博文、高司裕也、大木武らと喧々諤々と意見をぶつけ合って、バルサの真似ではなく、あくまでバルサの育成を叩き台にして日本に合ったものを模索した。出版に際して岡田会長に尋ねた際、苦笑い気味にこう語っていた。
「バルサのプレーモデルには静的、動的と分けていて、我々はそこを真に理解しないまま進めていこうとしまっていた。カタルーニャの人の歴史とか文化まで理解しないと、やっぱり真似事になってしまう。それじゃ意味がない。あくまで彼らのアドバイスはヒントであって、日本に合ったものをつくらなきゃいけないと考えて何回もやり直した。みんなが考えをぶつけて、グローバルディレクターの橋川(和晃)がそれをうまく整理してくれてからは全体像がバッと見えるようになった。途中まではまったく見えなくて、体系化するのは無理かもなってあきらめそうになったこともあったよ」
この本はサッカーの指導者向けであるのだが、どのスポーツの指導者でも参考になるのではないかと感じる。
育成年代の子供たちに、どう言えば伝わりやすいのか。自分たちで専門用語をつくったのも、子供たちが頭のなかで整理しやすいようにするためだ。
本書ではこんな例を出している。
メソッドが完成する前なら、このような指示になるという。
「(味方の)センターバックがボールを持ったら、みんなそんなに怖がらないでサポートしてやれ。それからしっかり動いて、トップへのパスコースもつくらないと」
確かにイメージは分かるが、具体的ではない。
メソッド完成後はこうなる。
「アンカーが2人とも【第2エリア】にいるからトップへのパスコースが閉じられている。センターバックが持ったらアンカーの一人は怖がらずに【第1エリア】に入って【①のサポート】をしろ。センターバックはパスを出したら、すぐに【ブラッシング】でボールを受けて前にフィードをしろ」
解読させていただくと、【第2エリア】は直接的かつ間接的にも関与する範囲、【第1エリア】は直接的にボールに関与する範囲としっかり区分していて、【①のサポート】は相手のプレスを受けているボール保持者を助けてやらなければならない緊急のサポートと定義する。また、【ブラッシング】とはパスを出した方向に動いての味方とのパス交換を意味する。なるほど、かなり指示が具体的になる。
FC今治の育成年代の選手は日々の練習で頭に叩き込んでいるため、全体で共有して動くことができる。しかしこれは思考の放棄ではない。16歳までに「プレーモデル」を体に染み込ませておいてから「解放」に向かうという手順。立ち戻るべき「基本」があるから、応用につなげられるという発想である。
「秘伝の原則集」であることに間違いないが、この本には岡田流のチームマネジメント学、リーダー論もあって読み応えは十分である。
繰り返し読むことで、心に刺さる箇所が違ってくるのも面白い。
ゴールデンウイークに300ページ読むぞと決意を込めて、部屋に積み上げた書籍の一番上に「岡田メソッド」を置いている。
終わり
2021年4月公開