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しぶさんぽ Season8 VOL.3

巨人軍多摩川グラウンドのあった場所で

東急の東横線、目黒線、多摩川線が交差している多摩川駅に到着。ここから二子玉川駅行きのバスに乗って向かった先は河川敷のグラウンドだ。多摩川グラウンド前という停留所でバスを降りると、広い河川敷に野球やサッカーのグラウンドが広がっていた。

ここは多摩川緑地広場という。かなり広い緑地広場で、野球場が硬式用と軟式用を合わせると6面、サッカー場が2面、テニスコートもズラリと並ぶ一大スポーツ施設と言える。この一角にかつてプロ野球の巨人軍多摩川グラウンドがあったのをご存じだろうか。

東急東横線から見た多摩川河川敷

 

巨人(ジャイアンツよりこの呼び方のほうが当時を偲ばせる)がこの場所を国から借り受けて二軍のグラウンドを整備したのが1955年(昭和30年)のこと。川を渡った川崎市中原区丸子橋には巨人の選手寮もあった。

このグラウンドで汗を流した選手たちが前人未踏の日本シリーズV9(1965年から73年)の立役者となった。長嶋茂雄、王貞治のONを筆頭に、森昌彦(森祇晶=のちの西武ライオンズの名監督)、柴田勲(赤い手袋)、土井正三(のちにオリックス・ブルーウェーブの監督)、堀内恒夫、高田繁…と名前を挙げていったキリがない。こうした名前を聞いて思わず目頭が熱くなる世代はもう60歳以上になってしまった。

今の時代から考えれば、日本一のプロ野球チームの練習場が二軍とはいえ多摩川の河川敷だったとは信じがたい。雨が降ったらどうするの? 事実、台風がきてグラウンドが水没し、1ヶ月以上もグラウンドが使えないこともあったという。熱心なファンなら二軍の練習だって見に行くし、ここではとてもファンの対応なんてできやしない。

そこで巨人は1985年、東京都稲城市と神奈川県川崎市多摩区にまたがるよみうりランドの敷地内に、今でも使われている読売ジャイアンツ球場を建設する。これにより多摩川グラウンドは役目を終えた。こうしてかつての巨人軍多摩川グラウンドは歴史上の伝説となったのである。

筆者の後方が巨人軍多摩川グラウンドのあったあたりらしい

 

私と近藤カメラマンは現在の多摩川グラウンドを使っていた中学生とおぼしき野球チームの練習を眺めながら、桜の花びらが散る河原を下流に向かって歩いた。今度は多摩川駅から東急多摩川線に乗車して蒲田へ。JR京浜東北線に乗り越え、この日3度目の多摩川超えをして川崎に入った。最後に目指したのは旧川崎球場である。

川崎駅からバスに乗り、教育文化会館前で下車。停留所の目の前にあるカルッツ川崎は、川崎市体育館が2014年に解体されて、同じ場所に新たに建設されたスポーツ施設だ。川崎市体育館といえば、1979年にプロボクシング世界王者の具志堅用高がリコベルト・マルカノを下して当時の日本記録となるV7を達成した場所であり、80年代からはクラッシュギャルズを中心とした全日本女子プロレスが熱狂的なファンを集め、“女子プロレスの聖地”とも呼ばれた体育館だった。

川崎球場は生まれ変わりアメリカンフットボールの聖地に

バスを降りて思わず川崎市体育館の歴史を思い浮かべてしまったが、目的地はカルッツ川崎と道を挟んで向かい側にある旧川崎球場だ。と、回れ右をすると目に入ってきたのは川崎競輪。ここには競輪場もあった。

スポーツ施設が集まる川崎市の富士見公園

 

今回の「しぶさんぽ」は東京競馬場から始まって、ボートレース多摩川、そして川崎競輪とレース場が続いた。実は立川には立川競輪があり、京王線の京王多摩川駅には競輪の東京オーヴァル京王閣がある。多摩川沿いを攻めていけば、レース場に必ずぶつかるのは当然だったのだ。

さあ、前置きが長くなってしまったが、川崎競輪の奥にあるのが旧川崎球場だ。かつてスタンドに閑古鳥が鳴き続け、川崎“河川敷球場”と揶揄されながら、プロ野球ファンの心に残るあの球場。今はリニューアルされて新たにアメリカンフットボールの聖地というポジションを手に入れつつある。川崎球場の照明灯を3基残しているのは、歴史への配慮ということだろうか。

川崎球場のことも少しだけ書いておきたい。

川崎球場を本拠地としていたロッテオリオンズが千葉にフランチャイズを移転したのが1991年のこと。その後、プロ野球の試合が行われたり、高校野球の予選で使われたりしていたが、老朽化を理由に2000年、惜しまれながらスタンドが取り壊された。

富士通スタジアム川崎。この日はジュニアのサッカーが行われていた

 

スタンドが壊されて以降、改修工事をへてアメリカンフットボールでよく使われるようになり、2014年に名称が川崎富士見競技場に変更。さらに15年から富士通がネーミングライツを取得し、地上4階建て、3800席を備えてスタイリッシュな富士通スタジアム川崎として生まれ変わっている。

川崎球場の思い出を一つだけあげるとするならやはり“10.19”だろう。1988年10月19日、優勝争いをしていた近鉄が川崎に乗り込んでロッテとダブルヘッダーに挑んだ。2勝すれば優勝という局面で、1勝して迎えた第2試合は無情にも時間切れ引き分け。西武が優勝をさらうことになった10.19はいまだプロ野球ファンの語り草である。

いやはや、少し思い出に浸りすぎてしまったようだ。府中から始まった本日の散歩は川崎で終わり。歩数計の数字は1万6554歩。近藤カメラマンと川崎駅まで歩きながら、次のチャンスがあればもう少し勝負してみようと思う私だった。

おわり

2021年4月公開

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