今回の遠征では開幕直前のガンペール杯と呼ばれる親善試合とシーズンの開幕戦で、ガンペール杯はインテル(豪華!)、リーグ戦はアスレティック・ビルバオとの対戦を取材予定でした。前年の失敗を考慮して取材申請は編集部に協力を仰ぎました。さすがは老舗のスポーツ総合誌です。キレイにレイアウトされたレターヘッド付きの申請書は全部英語! 当たり前の話なのですが、初めて見たときはそれだけでテンションが上ったものです。
そして、僕にしては順調に現地まで行けて、いよいよ緊張の瞬間を迎えます。メディア受付の目の前にたどり着いたのです。ドキドキしながら訪ねてみるとすでに多くの報道陣が集まっていました。日本でプリントアウトしてきた申請書を見せると、1Dayパスとフォトグラファー用のビブスを手渡してくれました。一年前、無情にも追い返されたときはキツイ顔つきに見えた女性スタッフがこの日は輝いてみえたから人間って不思議です。
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苦節一年半。この時間を長いとみるか短いとみるかは人それぞれですが、僕にとってはドイツW杯、U19アジア杯、U20W杯、そして、アジア杯と、それなりにキャリアを重ねた期間だったので、ものすごく濃い一年半でした。そして、2007年8月29日。ついにカンプ・ノウのピッチサイドに立つことができたのでした。
カンプ・ノウ。言わずと知れたFCバルセロナのホームスタジアムにして、カタルーニャ人にとっての聖地とも呼べる場所です。1957年9月に産声を挙げた12万人(現在は10万人)収容の巨大な建造物は、2度の修繕と1度の拡張工事を経て50年たった当時も異様な雰囲気を携えていました。
目に映るものすべてが新鮮でシャッターを切りまくった結果
お上りさんよろしく目に映るものすべてを写真に収めていると、あっと言う間にキックオフを迎えました。このとき僕が狙っていたのは新加入のアンリです。しかし、すぐそばにはロナウジーニョがいて、若き日のメッシがいて、対戦相手にはフェノメノと恐れられたアドリアーノまでいます。豪華すぎる! うおおおおお!! 目移りするなという方が無理!!! と異常なテンションで撮影に臨んでいました。
悪くはないけれど、ありきたりな絵に戸惑っていました
しかし、肝心のアンリでしっくり来る写真が撮れていませんでした。ここで我に返った僕は彼のプレーをじっくり観察することにしました。そして、やっと彼らしい動きを発見することができたのです。それは左サイドからゴールに向けて切り込んでくる瞬間です。もともと右サイドに撮影ポジションを陣取っていた僕からすると反対サイドからこちらに向かってくる構図になるのですが、それだと迫力に欠けた写真しか撮ることができなかったのです。
そこで、途中から思い切って左サイドのゴールポスト付近に撮影ポジションを変えました。ポストに近いと真ん中から右サイドはゴールが被ってほとんど撮れなくなるリスキーな選択でした。そして、捉えた一連の瞬間がこちらです。
左サイドからのカットインの瞬間を連続写真でどうぞ!
かなりアップ目で捉えていたので、縦位置で追い続けるのは難しいのですが、このときは運良く撮影に成功しました。撮った瞬間に手応えを感じたのを今でもハッキリと覚えています。
練習場にて。金網フェンス最高!ってなったカット
試合翌日には練習場を訪ねアンリのいい感じの写真を撮ることができて、その3日後にはリーガ・エスパニョーラの開幕戦に挑むことができました。ここまでほとんどトラブルなし! 「え? トラブルないの?」と思ったアナタはなるフォトTHEワールド!の熱心な読者さまです。ありがとうございます! 安心してください、最後に極上のやつをご用意しています。
ガンペール杯と異なり、まだ日が明るい時間にキックオフを迎えたのですが、その少し前。試合前の練習を撮影しようとしゃがみ込んだそのとき!
「ビリビリビリ、ビリッ」
嫌な音が聞こえました。ま、まさか、、、。お尻のあたりをサワサワ。履き古したハーフパンツのお尻の部分が見事に破けてしまい、パンツ丸出し状態になってしまったのです。「えーーー今ですか!?」。旅の恥はかき捨てなんて言葉もありますが、さすがに恥ずかしすぎるだろ、これは、、、。テンパっていると時間が経つのは早いものです。練習中だった選手たちが引き上げ、いつ登場してもおかしくない状況になりさらに焦ります。そこで閃いた僕はお尻を隠しながら個室トイレに駆け込みました。すぐさま機材を下ろし破れたハーフパンツを脱ぐと、裂け目をガムテープでつなぎ合わせる荒業を思いついたのです。鏡で見てみてもまったく問題ないレベル。これなら仮にバレたとしてもかき捨てられるレベルの恥だと判断した僕は何事もなかったかのようにピッチサイドへ戻っていったのでした。
結果的に今回のバルセロナ遠征は大成功に終わりました。なぜなら、さきほど連続カットでお見せした写真の最後のカットがNumberの表紙に採用されたからです。憧れの雑誌で表紙を飾ることのは、フォトグラファーにとって最高の名誉であるとともに、僕を指名してくれた編集部の期待に応えることができて、ホッと胸を撫で下ろしたのでした。
Sports Graphic Number 687 ではデザインセンスに圧倒されました
終わりッ
2021年3月公開