――アメリカで約10年・日本で約20年スケボーに携わってきた中で、小原さんにとってのスケボーカルチャーってどんなものでしょうか?
はじめは、世間に受け入れられない、はみ出し者がやるようなもの。スポーツとは言い難いものでしたよね。だってタバコ吸いながらだって、酒飲みながらだってやりますし、そんなスポーツってないじゃないですか。ましてやどこかグラウンドを走るわけでもないですし、トレーニングをするわけでもないですし。僕にとってのスケボーは、とにかく「楽しむもの」なんです。好きなときにやって、その感覚を楽しんで。そして仲間との時間を共有して、それが生活の一部になっていくんです。
――日米両方のカルチャーにふれてきた小原さんならではの視点ですね。
そうですね。僕はアメリカにもいましたが、スケボーって言葉がいらないんです。スケボー自体が言葉になっちゃうんです。スケボーひとつあれば世界のどこに行ってもスケーターと出会えて、一緒に楽しめます。世界の共通言語だと思っています。ものすごくパワーがあって、それはカルチャーと言えるものなんじゃないですかね。
――そのカルチャーの中でも、特にファッションについてもお伺いさせてください。スケーターファッションは最近のストリートシーンでも流行っている印象です。
元々スケボーが“はみ出し者”文化からはじまっているので、スケーター達って人と同じものが嫌いな人がすごくいっぱいいるんです。一般的にはこういうのがいいっていうファッションでも、そこをズラそうとする人が多いと思っています。だから変わった格好をしたりしてたじゃないですか。でもそれがいつの間にか一般に受け入れられるようになって。土管みたいなパンツ履いてる時代もあって、でもそれが今90年代ファッションとして今に戻ってきて、また少し洗練されましたよね。
――確かにスケーターの人たちにそんなイメージはありますね。スケートショップの店員さんのスタイルもすごく変わっていたりするので。
とにかく「変わったことをしたい」という人が多いですし、そしてすぐ自分でできると思えるんですよね。一般とは違うものを求めて「自分だったらこうしたい」というのをすぐ実行に移す人が多いから、それがファッションとしても見られて、カルチャーにつながったのかなと思います。
――小原さん自身も「Color Communications」というブランドを手掛けていますよね。この経緯についてもお伺いさせてください。
立ち上げたのは2005年なんですが、けっこう僕の身近な人達が既に自分のブランドをやっていたんです。例えば池袋にある『Magical Mosh Misfits』は、同い年の友達がやっています。その友人に『そんなにスケボーもできて、英語も喋れて、色々できるんだからお前もやってみればいいじゃん。なんでやんないの?』と言われたんですよ。元々デザインは好きで日本でもロゴとか作ったりしていたので、じゃあTシャツでも作ってみようかなと思ったのがはじまりでした。
――そこから今もう15年目を迎えているんですね。すごいです。
全然デカくはないですけどね、細々とやっていますよ(笑)
――ブランドのコンセプトがすごく印象的です。他のスケーターの方が立ち上げたブランドとはまた異なり、色んな人が自分ゴト化して着やすいデザインだなと思いました。
基本的に僕は流行りを気にしないんですよ。それにファッションの中で生きてきたわけじゃないので、僕やウチ(Color Communications)のライダーが好きそうだなと思うもの、定番っぽいものに自分のデザインを乗せるように作っています。なのでラインナップの波もなく、突拍子もないものが出たりすることもあまりないんですよね。
――そんな中でも、小原さんのアメリカ時代の思い出を彷彿とさせるデザインのTシャツがあったりと、どこかに”想い”が込められていますよね。
地元愛とか、そうした今までのルーツが僕のフィルターを通して出てくる、それが「Color Communications」なんです。15歳からずっとスケボー屋にいたので、何が市場に出ているかは全部見てきました。雑誌も全部見てる。それを全部吸収した上で出てくるもの、そんなイメージですね。
――ショップのストアディレクターとブランドのディレクターという顔をお持ちですが、両立させてきたことで何かプラスになったことはありましたか?
「大体こういうのが売れる」ってことは分かっちゃいますよね(笑) もちろんそこをベースには考えませんが。あくまでも本業はカリフォルニアストリートですけど、「Color Communications」ではありがたいことに何でも自由にやらせてもらっています。ブランドがきっかけで、実は写真もはじめたんですよ。
――写真というと、つまりカメラマンということでしょうか?
そうです。(ブランド立ち上げから2年後の)2007年くらいからスケートの写真を撮っているんです。カメラマンに頼んでそれを買い取ることは全然出来るんですけど、出てくるものと自分のイメージが違って。周りには教えてくれるプロのカメラマンもいるし、自分ではじめようと。実際にメディアへ提出して使ってもらったこともあるんですよ。
――ブランド立ち上げというチャレンジから、また別のチャレンジが生まれたんですね。
やっぱり「できないことはやりたい」ってことですね。スケーターは自分で全部コントロールしたいっていう人種も多いですから。
――改めて小原さんは根っからの”スケーター”なんですね。ちょっと話が戻りますが、そんなスケーターファッションの中で特にシューズは、今ストリートでも絶大な人気でプレミアム価格での取引が出るほどです。こういう現状って、小原さんはどう思いますか?
ウチの店でも最初はパニックでしたよ。「NIKE SB」をはじめてネットショップに出したら、公開した状態のままアップしてサイズを入れようとしたらその前に売れちゃうみたいな(笑) そんな経験を経て、今の販売方式に至りました。
――店舗で販売せず、会員をランダムに選んでメールで購入リンクを送る方式ですよね。今までに店舗の前に並びができたことはあったんでしょうか?
ないですね。スケボーショップってみんな仲良くて、先に(店頭の行列の)経験している他のショップに相談したら「絶対ネットがいいよ」と教えてもらいました。
――プレミアム価格で買っても履かずに家に飾っている人もいたり、スケシューなのに履かれないというのはとても個人的には寂しいです。
それも日本人のコレクタブル気質があるのかもしれないですよね。ヴィンテージのおもちゃのような感じで。でも僕みたいにVANSの靴を履いていて、それがスケボーのものだと知って、スケボーを始めるような人も中にいればいいなと思います。そんなシューズを売っているのがスケボーショップなので、それをきっかけに店にも来てもらったら嬉しいですね。
――小原さん自身がそうですし、本当に説得力があるお言葉ですね。シューズもスケボーをはじめるひとつのきっかけ、特に今のブームだからこそ期待したくなります。ちょうど最後のテーマが競技としてのスケボーなので、この流れでもう少しお話を聞かせてください!
※取材は2020年12月下旬に行いました※
2021年2月公開