新型コロナウイルス感染拡大の影響から全体トレーニングができないなか、オフザピッチでやれること。
オンラインを使ってトレーニングしつつ、縦割りグループで日々のコミュニケーションを深めつつ、そして週1回の全体ミーティングで全員の取り組みを共有しつつ、オフザピッチをとにもかくにも充実させていく。
「そのうちに学生のほうからあれがしたい、これがしたいといろんなアイデアが出てきました。よく思いつくなあって感心するほどでした」
そう言って外池大亮はうれしそうに笑う。
実現したアイデアの一つに、eスポーツ大会の開催がある。部や大学の枠を超えて8チームを集め、大会を成功させた。単なる「遊び」ではなく、部員や他の学生とつながる意義を考えての行動。マネージャー陣を中心にしたオンライン活動の輪は広がりを見せていく。
「現場で交流できない以上、オンラインでどうつながるかを彼らなりに考えたんだと思います。サッカー以上のことをどうやって表現していくか。そこの気概というのは凄く感じました」
もしコロナの問題が起こらなくても、外池は2020年シーズン、オフザピッチに目を向けるように部員に呼び掛けるつもりだったという。
「これまでもオンザピッチとオフザピッチの両方が大事なんだよとは言ってきましたが、部のなかでは〝そうは言っても、やっぱりオンザピッチだよな〟という雰囲気はありました。オフザピッチを〝余計なこと〟と捉える風潮だって、世のなかにはあると思うんです。学生たちには〝オフザピッチのことを考えるくらいならオンザピッチに集中したほうがいいんじゃないか〟っていう自問自答がありました。それが緊急事態宣言もあって〝オン〟のところができなくなった。〝オフ〟を極めていくなかで、サッカーはオンザピッチだけじゃ語れないということを分かってくれたんじゃないでしょうか」
緊急事態宣言が解除され、活動再開となったのが6月9日。延期となっていた関東大学リーグの試合も7月5日にスタートすることが決まった。
外池の目にはコロナに負けることなく、たくましくなった部員たちの姿が飛び込んできた。
オフザピッチで一体となってつながりを持ってきたことによって自主トレの工夫や現状の認識、思考の整理などそれぞれが成長してオンザピッチに戻ってきた。
あとはピッチ上で、今までやってきたことを落とし込んでいくだけ。みんなが能動的に、主体的に全体トレーニングに取り組んでいく。言うまでもなく感染対策も徹底した。
感染対策の観点からトレーニングにも制限があり、開幕までに紅白戦は一度やれただけ。それでも法政大学との開幕戦を2-1で勝利すると、専修、桐蔭横浜にも勝利する。優勝候補の明治には0-1で惜敗も、その後も連勝。オフザピッチに力を入れてきた成果を、部員たちも感じることができていた。
順調だったア式蹴球部にも、コロナの影が忍び寄る。
8月下旬、他の運動部において新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者がいたため、同じ寮に住むア式蹴球部員にも接触の可能性があった。PCR検査の結果が出るのに約1週間要するとあって、8月29日に予定されていた順天堂大学戦は延期となった。
部員の約半数にあたる寮生は1週間の活動停止に。全員陰性だったPCR検査の結果を受け、停止が明けてから練習に復帰した。ただ、次の国士館大学戦(9月5日)を考えるとコンディション的には難しい。そこで奮起したのが練習を続けてきた寮外生であった。試合には「今まで試合に絡んでこなかった」寮外生の5人を起用して、5-0と大勝。チームの総合力を確認できたターニングポイントのゲームになっている。
「最初は寮外生にも〝自分たちも活動を自粛したほうがいいんじゃないか〟という雰囲気があって、『お前ら試合に出る覚悟があるのか』と伝えたら最初はポカンとしていましたね(笑)。でもそこからはしっかりと次の試合に目を向けてくれて、いいムードでトレーニングできました。
結局、寮に住むというのも言わば個人の選択。実際、一人暮らしを選んだ部員もいます。もちろんいろんな事情はあるにせよ、自分で環境をつくっていくのも主体性。寮生が出られないなら、寮外生で試合をやるべきだと僕は思っていましたから。普段出ていない学生が活躍してくれたことで、また一段階、チームの力が引き上がった感じがありました」
試練を乗り越えたチームは9月の「アミノバイタル??カップ」で4年ぶりに決勝まで勝ち進む。結果的には流通経済大学に敗れて準優勝に終わるものの、この大会で外池の心をふるわせたエピソードがあった。
2回戦の立教大学戦だった。初戦から中1日という日程で臨まなければならなかった。
外池はいつも対戦相手の情報を伝えるようにしている。分析を踏まえた戦術のみならず、歴史を押さえておくのも外池流だ。
歴史とは、このように。
早稲田は1924年に創部しているが、立教はそれよりも1年前に創部していることを。東京六大学野球をはじめ、大学スポーツにおいて切磋琢磨してきた間柄であることを。立教の校風や部のスローガンまで伝えている。今は2部に所属しているが、「きちんとリスペクトを持って戦おう」と呼び掛けた。
お互いに力をぶつけ合う好ゲームとなった。スコアレスでPK戦の末に早稲田が勝ち上がったが、試合後にお互いに健闘を称え合う姿に外池の胸は熱くなった。これが大学スポーツの良さ。コロナ禍によっていろいろと考える時間が多くなったなかで、あらためて気づかされる思いがあった。
「お互いがリスペクトして精いっぱい力を出し切って戦うことによって、学生同士の絆が生まれる。そうだよなって、これだよなって。やらされるんじゃなくて、みんなが主体的にやって、部のなかでも、部以外でも、いい絆が増えていくというか。あの立教戦はとても感動しました」
オフザピッチを極めてきたからこそ、オンザピッチが活きてくる。
このシーズン、再び何か試練が起ころうともきっとみんなで乗り越えていくことができる。外池はそう確信していた。
2021年1月公開