日本ハンドボールリーグに2020年、新規参入したジークスター東京は開幕2戦目に初勝利を挙げたものの、その後は苦しみ、10月を終えた時点で1勝6敗1分、11チーム中10位に甘んじている。第1話に続き序盤戦を横地監督に振り返ってもらった。
序盤戦で試練に直面 大黒柱が1人欠け窮地に
――4戦目となった大同特殊鋼戦(9月13日)で大黒柱の一人、日本代表経験者の東長濱秀希選手がけがで戦線離脱。そこからチームが下降線を描きました。次の大崎電気戦(9月19日)では試合後、横地監督が「負けるにも負け方がある」と厳しい言葉を口にしていたのが印象的でした。
初のリーグ参戦。スタッフも選手も手探りが続く
横地 試合が始まって10分くらいの段階で、もう選手たちの心が折れてしまいました。まったく守れないし、攻撃もうまくいかない。実は今までは、たとえ攻めあぐねてチームで得点できなくても東長濱や信太弘樹(両選手ともに日本代表)が個人技で何とかしてくれていました。だからなんとなく競った状態で試合を進められたんです。結果、他のメンバーも辛抱できた。それが東長濱の離脱で辛抱できなくなってしまったんです。
――大黒柱がいなくなり、歯車が狂ってしまったと。
横地 何人かの選手とは話をしましたけど、開幕戦で強豪のトヨタ車体さんとまずまずの試合をして、2戦目で勝利して、悪い意味で「ちょっといけるんじゃないか」という感情を抱いた選手もいたんです。そのままの状態で大崎電気さんにも甘い気持ちで臨んだ。蓋を開けてみたら全然通用しない。「おかしいぞ」と思い始め、メンタル的にネガティブなほうに入ってしまいました。
――狂い始めた歯車はなかなか元に戻らないということでしょうか?
横地 次の北陸電力さんとの試合(9月26日)も同じです。北陸電力さんは「新規参入のチームなんかに負けてたまるか」という気持ちで試合に臨んできました。予想できたことですから「強い気持ちで立ち向かわないと絶対に勝てない」と選手には伝えたのですが、試合では気持ちを出せず、やられると沈んでしまう、という悪いパターンで負けてしまいました。
選手たちに指示を出す横地監督
――若い選手たちは長いリーグ戦の経験がありません。やはりチームのムードがいったん悪くなると立て直すのは難しいのでしょうか?
横地 そうですね。そういう状態がブレイク(日本代表の合宿などがあって少し試合の期間があく)前のトヨタ紡織九州戦(10月17日)の前半まで続きました。あの試合は後半に入ってがんばりましたけど、前半(7-14)の失点を取り返す力はまだうちのチームにはありませんでした(最終スコアは25-29)。
――トヨタ紡織九州戦は後半に2点差まで追い上げてかなりの気迫を感じました。チームがいい方向に立ち直ればと願っています。
目標は3年以内に日本一 成長しなければ生き残れない
――東長濱選手の離脱とチームの低迷はピンチではありますが、成長するチャンスだとも言えると思います。
横地 逆に言うと成長してもらわないと残っていけないんです。もともといたメンバーはやはり意識の面で少し足りないところがあるのは事実です。
――ジークスター東京の前身、東京トライスターからのメンバーですね?
横地 トライアウトで選手を集めてスタートを切ったのが2018年の4月でした。19年には日本リーグに参入できず、2年後に日本リーグに入ることを目指していました。そのとき入ってきた選手は「日本リーグでプレーしたい」というのが目標。「日本リーグでプレーする」がゴール設定なんですね。
――夢の舞台でプレーしたいと。
横地 ところがいまは「日本一を目指しましょう」というゴール設定になっているわけです。そのギャップがなかなか埋められない。日本一になるためにはどれくらい練習しないといけないのか、どれくらいのレベルにならなければならないのか。チームにいいお手本が3人(プロ選手の信太、東長濱、甲斐)いるわけですけど、まだ「東長濱さん、信太さん、すげーな」という意識が抜けきらない。それではダメなんです。同じレベルでプレーできるようにならないといけない。3選手はトップですから簡単じゃないですけど、そうならないと日本一にはなれないんですよ。
――そのあたりの意識改革がどうしても必要ということですね。見方を変えれば実際にリーグに参戦して、戦ったからこそ突きつけられた課題と言えるかもしれません。
横地 チームの首脳は1年目にプレーオフ進出(リーグ戦上位4チーム)、3年以内に日本一という目標を掲げました。そうなると時間がないんですよ。5年、10年かけて強くなるなら、いまいる選手を根気よく育てていく方法もあるかもしれません。でもそうではない。高い意識を持って実力を磨いていかないと、選手たちはチームに残ることはできなくなるんです。
細川は序盤戦でチームトップの得点をマークした
――8試合を終えて収穫といいますか、良かったところもあったのではないでしょうか? たとえば細川智大選手はチームトップの44得点を挙げています。
横地 細川はある程度やれるんじゃないかとは思っていました。あとは豊本涼太も通用するプレーがありました(チームで細川、信太に続く31得点をマーク)。ただし課題はアシストですね。あのポジションはゲームメーカーなんで、彼が得点するのはもちろんなんですけど周りの得点が増えていくことを期待しています。
――どうしても厳しくなりますね…。
横地 ええ。豊本はまだまだではありますけど、次に何をしなければならないか分かったことは収穫だと思います。そこまでいけたということですね。一番良くないのは勢いだけでやってしまうこと。勢い任せの選手は良かったり、悪かったりを繰り返すだけでなかなか成長できません。
――選手たちは本当に厳しい環境で戦っていることがよく分かりました。
2020年11月公開