2016年8月4日——
この日、歴史が動いた。
ブラジルで開催された国際オリンピック委員会(IOC)総会にて、Skateboarding(JOC表記はスケートボード)が2020年東京オリンピックの正式種目として採用が決定したのである。
ルーズなファッションで、ちょっと怖い人達がやっている?
若い子たちが、街中をビュンビュン駆け抜けてる?
自分がやったら、すぐに怪我しちゃいそう?
イメージを問えば、そんな声も聞こえてきそうなスケートボード。
ちなみにその起源は1960年代と言われている。木製4輪キックスケーターからハンドルを取ったものが原型と言われており、近代スポーツのように歴史があるわけではない。単純計算だが、生まれてたった60年程度の競技なのだ。
そんな”新参者”がオリンピックの正式種目として採用されたことだけでも一大事なのだが、ここにストリートファッションというフィルタをかけ合わせるともはや大事件だ。ここ数年におけるトレンドの中心には必ずスケーターファッション・スケーターシューズがあり、現在もその勢いは拡大中なのである。
東京オリンピックの正式種目は、ストリートファッションの牽引者。
こんなパワーワードが生まれるスポーツ、それがスケートボードなのだ。
ということで、SPOALのファッション担当としては書かないわけにはいかない。勝手な使命感に駆られ、スケートボードという競技を追いかけていくことにした。
来年の本番まで続くような、シリーズに。
それは願いではなく、約束だ。弱冠60歳の”新参者”スポーツが駆け抜けてきた濃密な軌跡は、決して語り尽くすことはできないものである。
これは、様々な角度から、様々な人の声で紡ぐ、『スケボーのおはなし』
シーズン1、舞台はお台場。
必殺、雨降らし。
スケートボードにはトリック(=技)と呼ばれるものがあるのだが、どうやら今日は私のトリックも発動してしまったようだ。2020年の取材降水確率は、今日で6割を超えた。
オープニングから不穏な出だしだが、気を取り直してまずはシーズン1の主役をご紹介しよう。
右にボードを立てるは、今年で創業25周年を誇る日本屈指のスケートボードショップ「instant(インスタント)」お台場店の関虎次郎店長。ボーダー達やファッショニスタが訪れるショップの顔であり、ファッションとして競技としてスケートボードと向き合っているという、まさに今回のシリーズにうってつけの存在だ。
そして左にボードを従えるは、日本ハンドボールリーグ大崎電気OSOLに所属するプロハンドボール選手の森淳。SPOALの取材でもお馴染みの同選手だが、スケートボードへの愛・ストリートファッションへのこだわりはスポーツ界でも屈指の存在。最近では「SAPEUR(サプール)」という人気急上昇中ブランドのモデルも務めるなど、その露出はコート外でも増えている。
スポーツとして、ファッションとして、それぞれの視点でスケートボードを語れる二人。
この組み合わせは、いったいどんなケミストリーが生まれるのだろうか。期待に胸を膨らませながら、関店長の案内のもとインスタントのお台場店へと向かった。
インスタントは、1995年創業のスケートボードボード専門店だ。千葉県浦安を拠点に千葉・お台場・吉祥寺にブランチショップを展開しており、今年の7月には渋谷の新ランドマーク「MIYASHITA PARK」内に渋谷店をオープン。首都圏を中心に5店舗を持つ、国内屈指の店舗となった。
その一つであるお台場店は、お台場の人気ショッピング施設「ダイバーシティ東京」の中にある。大規模なフードコートから、メンズからウィメンズまで幅広く揃ったショップ群、そして最上階エリアにラウンドワンもあるダイバーシティは、若者を中心に賑わっている。
特にインスタントが居する5Fはシューズショップからストリートブランド、スケボーブランドが軒を連ねており、平日にもかかわらずオープン直後から人が多い。これもまた、昨今のストリートファッションの勢いを象徴する1シーンだろう。
何を隠そう東京オリンピックのスケートボード競技の開催地は、お台場のすぐ近くにある「有明アーバンスポーツパーク」である。オリンピックの試合会場に最も近い場所にある、スケートボードショップ。そんな背景も踏まえて、今回はお台場店での取材をお願いしたのであった。
「うわ、すげえ!」
入店早々に森選手がそう叫ぶ。
出迎えたのは、きれいに壁一面に陳列されたデッキ(板)の数々だった。デッキは、スケートボードの足を乗せる板の部分を指し、スケートボードのパーツの中でも最も個性を主張できるものだ。それゆえに、こうして一面に並ぶと圧巻の画となる。それはまるでストリートの落書きのように。
「これでも大分少ない方なんですよ。(コロナ禍で)中々仕入れるのが難しくなってしまったので。」
と返す関店長。これだけの画にもかかわらず、以前はもっとバリエーションがあったというのだから驚きである。ちなみにダイバーシティは上のフロアにスケボーパークも併設しており、ここで一式を揃えてからライドを楽しむことが可能なのだ。手ぶらで来てもスケボーができるのは、ダイバーシティの大きな魅力と言えよう。
さて、店内を少し眺めてテンションも整った森選手が所定の席に座り、続いて関店長も隣に座った。横でポジションを確認する近藤カメラマンの準備も、大丈夫そうだ。
ここから1時間弱、熱く、濃いトークセッションがはじまる。
どうか最後までお楽しみいただきたい。
※取材は2020年10月上旬に行いました※
2020年11月公開