前回の冒頭のやり取りは最初のモスクワ滞在の最終日の出来事でした。
チェックインのとき、家主には5日後にはチェックアウトするけど、また戻ってくることを認識しているか確認しました。そして、一度目のチェックアウトは、旅程の関係で深夜3時くらいになる旨を伝え、鍵は預かったままで良いか交渉して、了承してくれたはずでした。もちろん部屋代は不足なく支払っています。それが突然、深夜12時に出て行けとなったのです。正直、カチンとしました。
タ「そんな話は飲めないって伝えてよ」
不機嫌になった僕に気を使いながらメッセージを送るオサダくん。「ソーリー、、、」から始まる文面をチラ見してさらに不機嫌になる僕。
タ「悪くないのに謝ったらこっちが悪いことにされちゃうよ?」
一向に埒があかない展開に不機嫌の度合いは増すばかりです。
タ「もういい。12時に出よ。その代わり後半はキャンセル。もちろんキャンセル料は払わない」
オ「でももう払っているので、、」
タ「予約サイトにクレームいれて。話が違うってことと、あの部屋の写真も送ってね」
本来であれば、シャワーを浴び仮眠をとってから空港に向かい、早朝のフライトで日本代表の初戦の地サランスクに飛ぶ予定でした。しかし、急な予定変更のために大急ぎで部屋に戻り、せっかく洗い流した汗を再びかきながらの移動となってしまったのです。
僕が苛立った理由は空港での時間の過ごし方に不安があったからでした。通常、チェックインはフライトの2時間前くらいからしかできません。そうなると機材だけでなく、大きなスーツケースまでも盗難から守りながら、睡魔と戦わねばなりません。「どうしたものか」と思案したのですが、幸運なことにチェックインカウンターが開いていて、さらに深夜にも関わらずラウンジが営業していたのです。
「これで安全にフライトを待つことができる」
ささくれだった状態でしたが、ホッと胸を撫で下ろし、やっと一息つくことができました。
理不尽な状況に翻弄されたオサちゃん。キツく当たってごめんね。
ちなみに後日、この部屋のキャンセル料はほとんど支払わなくて済むことになりました。部屋の惨状をみた予約サイトも「これはあり得ないです」とこちらの主張を全面的に認めてくれる形になったのです。
さらに弁明しておくと、このロシア旅でモヤモヤさせられたのは、このときの家主だけでした。日本代表がコロンビアと戦ったサランスクや10日間ほどベースを張ったカザン、ポーランドと戦ったヴォルゴグラード、すべて民泊でしたが、いずれの家主も親切で十分な広さと掃除の行き届いた部屋を提供してくれました。
サランスクの部屋でくつろぐ先輩カメラマンのスエイシさんとライターのコミヤさん。
カザンで合流した編集長のニノさん。疲れがたまっている模様。
日本代表が思わぬ快進撃を続けている中で沸き立つ日本メディア。そして、そろそろ大会後半のベースとなるモスクワの部屋を探す必要がありました。予約サイトをチラチラみているとロケーションも良く、3ベットルームで1泊9000円の部屋を見つけました。先日の失敗があって少し怖かったですが、いつまでも怯えている訳にはいきません。
早速、家主に連絡を取るとあっさり予約成立。懸案の鍵の受け渡しは、玄関のポストに入れておくシンプルなやり方だったので、家主と時間を合わせる必要もなく安心しました。
そして、エムバペの活躍によって粉砕されたメッシを見届けてから、10日ほどお世話になったカザンに別れを告げて、モスクワまでひとっ飛び。タクシーでマンションに到着すると、想像以上の大きさに戸惑いつつも入館。守衛さんがいたけれどあっさり通してくれて、エレベーターに乗り込みます。ここで異変を感じました。
「ほ、埃くさくない、、だと?」
日本代表ロードの道中に泊まってきた部屋はいずれも清潔でしたが、建物自体は古く、エレベーターは埃の匂いがしていました。しかし、今回の物件はそんな匂いが一切しません。これは期待できる、、。そして、ついに部屋までたどり着きました。鍵は約束通り玄関の前にポストに入っていました。
「お邪魔しま~す」
恐る恐る重い扉を引きます。ここで衝撃が!
「玄関が広いッ!」
ロシアは日本と同じく靴を脱ぐ文化なのですが、靴が20足は置けるような広い玄関に8畳くらいありそうな部屋が3つにダイニングキッチンが備えられていました。
「おおおおおお」
と感嘆の声を発しているとキッチンから年配の女性が出てきました!
「え? 嘘、、。あれ? 部屋間違えた系??」
しかし、その女性はハウスキーパーさんだったのです。僕たちの滞在に合わせて、家主が手配してくれていたようです。そして、女性が帰宅してからあることに気が付きました。
「待てよ、、。こんな立派な部屋なのに、事前にハウスキーパーまで来て、あの値段(一泊9000円)ってあり得る?」
嫌な予感がしました。すかさずオサちゃんに確認をしました。
タ「ホントに9000円かな? 一桁間違えちゃったか、、、も?」
オ「待ってください、、えーっと大丈夫です。間違いなく9000円です!」
タ「うおおおおおお、まじか! 奇跡ッ!!」
そして、気になるお部屋からの眺めがこちら。じゃじゃん!
あまりの感動に部屋の内観を撮り忘れるというミス! 内観は眺めからご想像ください。
このとき、オサちゃんがニヤニヤしていたので聞くと「早く帰ってきてこの部屋で寝たいです!」と即答。いい笑顔です。
そうなのです。わざわざカザンからモスクワまでやってきたのに、その夜には機材とわずかな着替えだけを持ち、日本代表がベルギーと戦う決戦の地、ロストフ・ド・ナヌに旅立たねばならなかったのです。
この旅では初めてのワールドカップ取材の重責と、同行する年長者への気疲れでオサちゃんはかなり疲れていたと思います。だからこそ、ある意味で本番となる決勝トーナメントの撮影に集中できるように、少しでもいい環境を整えてあげたいと思っていたので、気に入ってくれたことが嬉しかったのは内緒です。
続くッ
2020年10月公開