ボクシングで通った懐かしの横浜文化体育館
高台にある山手公園から横浜市営バスにのってJR根岸線の関内駅へ。まず表敬訪問したのは駅のすぐ近くにある横浜文化体育館だ。ご存じの方も多いと思うが、通称「文体」は2020年9月6日、58年に及んだ歴史に幕を閉じた。
ここは取材で何度も訪れたことのある懐かしい体育館。柔道の全日本女子体重別選手権を除けば、そのほとんどがボクシングの取材だった。
数々のスポーツドラマが生まれた横浜文化体育館
この会場で世界チャンピオンになった選手が2人いる。1974年の花形進と1994年の川島郭志だ。現在、日本プロボクシング協会の会長を務める花形は、計量に失格したチャチャイ・チオノイ(タイ)に勝って世界王者に。実に5度目の挑戦でつかんだ栄光だった。類いまれなディフェンス技術から“アンタッチャブル”の異名を授かった川島はホセ・ルイス・ブエノ(メキシコ)からタイトルを奪った。
私が実際に取材をした中で印象深いのは2011年大みそかのボクシング興行だ。テレビ東京が初めて大みそかに世界タイトルマッチを放送したイベントで、世界王者の内山高志が挑戦者のホルヘ・ソリスを11ラウンドにぶっ倒した試合がメインだった。
取材を終えるころ、体育館の片隅で除夜の鐘を聞きながら年を越したのが懐かしい。あの文体がなくなるなんて…。少し感傷的な気分でまだ取り壊しが始まっていない文体を眺めたのだった。
いまをときめく世界バンタム級王者、井上尚弥もこの体育館で世界タイトルマッチを行っている。2017年暮れ、WBOスーパー・フライ級王座の防衛戦は3回TKO勝ちという圧巻のパフォーマンスだった。
寂しさを感じさせる催物のご案内
ちなみのここの土地は再開発され、24年に横浜ユナイテッドアリーナとして生まれ変わる。新たなアリーナではコンサートやバスケットボールの試合が開催されるとのこと。隣接地区には横浜武道館が7月に産声を上げた。またいつか取材に訪れる機会があることを願うばかりだ。
さて、少しばかり思い出に浸ったところで関内駅に戻る。駅の逆側では横浜スタジアムが私たちを出迎えてくれる。こちらの通称は「ハマスタ」。言わずと知れたプロ野球、横浜DeNAベイスターズの本拠地である。
横浜スタジアムは関内駅を出てすぐ
ハマスタの歴史はさすが横浜!の奥深さ
久しぶりに(といっても1、2年ぶりだと思う)横浜球場を見上げてみると何やら雰囲気が違うではないか。そういえば……横浜球場は2017年の秋から大幅な増築改修工事に着手し、すべての工事が終了したのが今年の2月のこと。これによりおよそ6000席が増え、収容人数は3万4000人程度になったという。
日本の野球発祥の地ではここではないが(東京都千代田区神田錦町の学士会館に日本野球発祥の記念碑がある)、そこは横浜だけに野球に関する歴史は盛りだくさん。以下、横浜スタジアムの歴史を公式ホームページから一部抜き出してみると―。
1874年(明治7年) 居留外国人のクリケットグランドの着工
1876年(明治9年) 横浜彼我公園竣工
1896年(明治29年) 旧制第一高等学校vs.横浜在住米国人チームの国際野球試合が行われる。1回戦29-4、2回戦32-9といずれも旧制第一高等学校が大勝
1909年(明治42年) 公園名が横浜公園に
1929年(昭和4年) 横浜公園球場が竣工
1934年(昭和9年) ベーブ・ルース、ルー・ゲーリック率いる米大リーグオールスター来日。全日本は4-21で敗れる
1945年(昭和20年) 終戦で駐留軍に接収されゲーリック球場となる
1955年(昭和30年) 横浜公園平和野球場に改名
1978年(昭和53年) 横浜スタジアムこけら落とし
2020年(令和2年) 増築改修工事終了
1934年に来日した大リーグチームは横浜公園球場を含め全国12都市で16試合を行った。このとき全日本チームは全敗に終わるが、静岡県草薙球場でアメリカチームを1点に抑えた好投はいまでも日本野球史に燦然と輝いている。そう、セ・リーグの最優秀投手に贈られる沢村賞の沢村栄治である。
歴史あるスタジアムをあとにする
それにしてもゲーリック球場という名前が10年も続いていたとは驚きだ。90歳オーバーのハマっ子に聞いたら、「ああ、ゲーリック球場の角をまがって…」なんて自然に出てくるお年寄りが1人や2人はいるのではないだろうか。
ハマスタの150年に及ぶ歴史に触れたところでスタジアムに別れを告げよう。神奈川県庁など歴史ある石造りの建物を横目に見ながら5分ほど歩けばもう海はすぐそこだ。
山下公園、大さん橋、横浜赤レンガ倉庫。海に面したこのあたりは市民の憩いの場としてのんびりしたムードに包まれている。特にスポーツ施設はなさそうに見えるが、かつて赤レンガ倉庫と大さん橋ホールでスポーツ取材をしたことがある。
なぜか大さん橋では走りたい気分に
赤レンガ倉庫で取材したのはキックボクシングのイベント。もうずいぶん昔の話だ。日本ではボクサーとして活躍したユタポン前田さん主催の興行だった。国際客船ターミナルがある大さん橋の先っぽにあるホールは、ボクシングの取材で行った。これは2019年3月だから最近の話。横浜を拠点とするE&Jカシアスジムのイベントだった。
ちなみに「しぶさんぽ season5」のロゴが入ったタイトル写真は山下臨港線プロムナードという遊歩道の下で撮影した。たくさんシャッターを切ってもらった近藤カメラマンに感謝。
さあ、私と近藤カメラマンはヘロヘロな体にムチを打ち、しぶさんぽ横浜編の第3ラウンドに入っていった。
2020年10月掲載