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しぶさんぽシーズン4 VOL.1

40年前の夏 奇跡を起こした都立高があった

夏の甲子園が新型コロナウイルスの影響で中止となり、心を痛めている人は少なからずいるのではないだろうか。通常なら7月は地方大会が真っ盛りの時期。母校の活躍をチェックし、「今年は1回戦負けか…」、「おおっ、3回戦まで勝ち残ってるじゃないか!」と心の中で小さくガッツポーズする。普段は野球を見なくても、高校野球は何となく気になるから不思議だ。

かつての昭島市民球場は大きく様変わりしていた

そこで今回は高校野球をテーマに掲げ、あこがれの“元祖”都立の星にターゲットを絞ってみた。都立の星とは1980年に都立高として初めて甲子園の土を踏んだ東京都立国立高のことである。

都国立、甲子園出場─。これはとてつもない快挙だった。

言うまでもなく、都立高が甲子園に出場するのは難しい。強豪私立高はスポーツ推薦で才能豊かな選手をそろえ、おまけにとてつもなく練習する。常識的に考えて、普通の野球好きな子どもたちが集まる都立高に勝ち目はないし、万が一にも都立が勝ってしまったら強豪校は立つ瀬がない。

実際に1980年まで都立高で甲子園に出場した学校はゼロ。公立高に広げてみても、甲子園に出場したことのある学校は高師付中(現筑波大付属高)だけだ。それも戦後間もない1946年の話である。

その後、1999年と2001年夏に都城東(東東京)、03年夏に都雪谷(同)、14年春に都小山台(同)が甲子園に出場したが、80年当時、都立の甲子園出場は夢のまた夢だった。

そんな時代に奇跡は起きたのだ。

1980年、全国高等学校野球選手権西東京大会に国立が初めて登場したのは同年7月17日のことだった。舞台は東京の西部、昭島市にある昭島市民球場。2016年に東京の多摩地区で自動車を販売するネッツトヨタ多摩がネーミングライツを獲得し、現在はネッツ多摩昭島スタジアムが正式名称になっている。

ネッツ多摩昭島スタジアムのバックスタンド裏

最寄り駅はJR立川駅から青梅線で西に2つ目のJR東中神駅。2017年に完成した橋上駅舎はまだ新しく、いかにもモダンな香りがする。当時の面影はまったくない。何しろ40年前はJRではなく、まだ国鉄の時代。オレンジ色の瓦屋根がかわいらしい、こじんまりとした駅舎が建っていた。

駅前のロータリーを南に抜けていくと、すぐにスタジアムの照明が見えてくる。江戸街道をはさんで向かいに広がる緑が昭和公園。この一角、駅寄りにあるのが昭島市民球場だ。球場は2010年にリニューアルされたから、ここも40年前とはだいぶ景色が違うだろう。

バックスタンドの裏側には、スタンドとネットの低い地方球場にありがちな「ファウルボールに注意してください」という看板がちらほらと立てられていた。こんな看板はきっと40年前もあったはずだ。

一塁ベンチ横から球場の覗き込むように芝を眺め、目を閉じて時計の針をググっと巻き戻してみると…。

国立の初戦、1回戦は昭島市民球場の第3試合だった。対戦相手は都立武蔵村山。国立は4回に押し出しで1点、8回にスクイズで1点という実に高校野球らしい形で2点を挙げ、2-0で武蔵村山を振り切った。

安打数は国立が6、武蔵村山が4というから「国立が少ない好機をものにして競り勝った」という試合だ。どちらも優勝候補どころかシードもされていない無名校である。両校の生徒や卒業生以外に、この試合に注目した人はおそらくいないだろう。

40年前の試合に思いをはせる

小柄なエースが奮闘 昭島球場で快進撃始まる

2回戦は3日後の20日、同じく昭島市民球場だった。国立は都立武蔵村山東に4-0の完封勝ち。国立のエース、市川武史は2試合連続の完封勝利。国立は続く3回戦も同球場に登場し、私立武蔵に7-2で勝利した。

大会の主催、朝日新聞の25日付け東京版は「国立小次郎敗れず」の小見出しで、ベタ記事を掲載している。短い記事なので、全文転載してみよう。

一回戦の相手が都武蔵村山、二回戦が都武蔵村山東、三回戦は私立武蔵。都国立は「武蔵」とばかり戦っている。「まるで佐々木小次郎みたいだ」と国立の尾又利一部長。
佐々木小次郎は宮本武蔵に敗れたが、国立小次郎は「武蔵」を三連破。「小次郎敗れず」でベスト16入りを果たした。

ほのぼのとした記事が高校野球らしく、この記事を書いた記者も、国立が優勝するとは微塵も思っていない。それがひしひし伝わってきてしまうところがほほえましい。

さて、国立はもはや“ホーム”と言える昭島市民球場で4回戦を迎え、シード校の錦城を4-0で撃破し、ベスト8進出を決めた。初回に4点を挙げ、またしても軟投派エース市川が散発3安打の完封劇を演じてみせた。

 雨中戦 東大和散る 国立、都立の孤塁守る

7月27日付け、朝日新聞東京版の見出しだ。東大和は3年前に決勝に進出しており、今回もシード枠が与えられた都立の強豪チーム。つまりこの見出しは、国立の勝利よりも東大和の敗北をより上位のニュースとして伝えている。

こうしてベスト8の顔ぶれは日大三、国学院久我山、東亜学園、駒大高、堀越、国士館、佼成学園、そして国立となった。実績では1971年のセンバツで優勝している日大三がダントツ。堀越が69年センバツで準優勝、佼成学園は74年の夏の甲子園に出場している。

一方でこの大会はシード校が次々と姿を消しており、波乱の予兆がないわけではなかった。それでもまさかこの8校の中で国立が抜け出すとは、この時点で予想できたものはいなかった。

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2020年7月公開

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