——まず、三宅さん。今日のお買い物はいかがでしたか?
三宅:普段こうやって時間をとることがないですし、そもそもあまり知識がなく人に付いて買い物してたので、疲れるというイメージがあったんです。でも今日がきっかけで、自分から買い物へ行こうかなという気分になりました。昔テストで「作者の意図を答えなさい」みたいな問題あったじゃないですか。あの答えがわかった状態で作品を見ているような気分になれたのが、とても楽しかったです。
小島:喜んでいただけてよかったです。
——ちなみに小島さんはスニーカーやアパレルなど様々なデザインもされてますが、自分の洋服やスニーカーを買いに行ったりはするんでしょうか?
小島:僕は学生時代からあんまり変わってなくて、常に好奇心を持っています。他のお店や競合店も行ったりしますよ。世界の動向も気になって仕方ないので一日中ずっとチェックしていますね。スニーカーショップって世界中にあって、毎日いろんなことが起きているんです。ずーっとそういう情報を見ながら刺激を受けていますよ。
三宅:せっかくの機会なので、僕からも質問させてください。我々フェンサーって、ルールに適応していく側なんです。会議でルールが決まって、それに合わせて技が生まれたり、戦術ができたりと。小島さんは、ルールを作っていく感じなんですか?それともルールがあってそれに合わせていくんですか?
小島:この業界はパフォーマンスシューズをメインに売っているわけではなくて、ファッションとかカルチャーを売っているんです。だからあまりルールのようなものはなくて、常に塗り替えられていくようなイメージですね。
三宅:やっぱりそうなんですね。僕はじめてズームアルファ(箱根駅伝で話題なったシューズ)を見た時には「なにこれ」って思ってたんですけど、段々みんな履くようになってきているし、カルチャーが靴に追いついてきた感じですよね。
小島:NIKEやadidasもそうですけど、常に”未来”を作っているんですよね。そこにワクワクします。もちろん昔から変わらないモデルもありますけど、今はやっぱりテクノロジーや未来の匂いがするものを常にチェックしていますね。そこに期待している部分はあるので。
——今日三宅さんが履いているasicsのモデルも、先日小島さんがデザインしたものですよね。モデル自体は長年親しまれたゲルライト3ですが、そのデザインにはいい意味で「ルールのなさ」を感じます。このデザインに込めた想いをお伺いしたいです。
小島:このゲルライト3は昔のモデルなんですが、僕らのファッションやカジュアルという点ではasicsの中で1番有名なものなんです。ちょうど(ゲルライトが)30周年でアトモスが20周年だったこともあって。今年はオリンピックイヤーでもあったので、日本を代表するメーカーと一緒にという想いがありました。
——なるほど。そういう背景でのパートナーシップだったんですね。そのゲルライトのデザインを、あのショーン・ウェザースプーンと一緒に手掛けたと。
小島:(ショーンは)今だとスニーカー業界で1番有名なんじゃないですかね?彼がロサンゼルスに住んでいるので、エネルギッシュな明るい街並みや、彼の好きな花畑などからインスパイアされているんですよ。左足が東京で、僕はどちらかというとアーバンで都会的なデザインなので、左右で昼と夜のコントラストがうまく表現できたのかなと。
三宅:いや、すごいですね。このカラーリングは。
小島:(左足のデザインは)日本というよりは、完全に東京をイメージしています。僕にとっては、都会的な東京って”暗い”というイメージなんですよね。そこに、雷門など東京を象徴するモノから色を使いました。
——小島さんにとっての東京は“暗い”というイメージというのは面白いですね。三宅さんにとってはどんなイメージですか?
三宅:僕は千葉県の市川市出身で、東京って日本が誇る大都会だとは思ってはいるんですが、今UberEatsの配達員をしていて思うのは、とにかく坂が多いんです。あと、思ったより(街が)小さい。自転車でどこにでも行けちゃうんです。学生の頃は市川から東京へ出て大きな街だなと感じていたんですが、歳を重ねるにつれて段々街が小さく感じるようになりました。
——UberEatsの配達って坂を走ることも多いんですね、これはまた面白い視点です。
三宅:いや、もう本当に…多いんですよ(笑)例えば赤坂の方へ行ったりすると、めちゃくちゃ坂があります。自転車だから全然走れるんですけど、とにかく多いなと。
小島:僕もけっこうUberEats使っていますよ、事務所にも届けてもらったり。
——なんと!ということはそのうち小島さんのところへ三宅さんがこのスニーカー履いて届けに来ることもあるかもしれませんね(笑)
三宅:この辺りで注文取ったら全然範囲内ですからね。十分ありえますよ(笑)
小島:(笑)
——聞きたいことはまだまだあるのですが、次が最後の質問です。東京を様々な形でかけてきたお二人ですが、これからの東京への想いを聞かせてください。
小島:東京オリンピックに向けて各社さんと色々準備をしてきたので、延期はやっぱり残念でした。今は気持ちを切り替えて、来年に向けて新しい準備をしています。また、僕たちは日本だけじゃなく、韓国やタイなど世界にも展開しています。ベースでもある東京のカルチャーを世界に向けて発信していく、ということは来年も引続き目標にしています。
三宅:やっぱり(延期になって)喪失感は半端じゃなかったです。毎日練習していたり、街中でもずっとカウントダウンしていたのに、今はカウントアップされているんですよね。それを見ると本当に心が痛いです。僕はロンドンでも経験しましたがオリンピックって本当に国をあげたお祭りですし、小島さんが言うようにカルチャーですし、みんなの思い出が共有できる場なんですよね。日本国民がいつでも振り返ることができる場所、それを作ることができるのがオリンピックだなと。いちアスリートとしては、今はそこに向けて準備をすることしか僕にはできないですし、それ以外のことを決める権限もないですから。とにかく今は練習し続けて、調整し続けるだけかなと思います。
エピローグー
実は今日の取材、三宅さんが特別にロンドン五輪で獲得した銀メダルを持ってきてくれた。
オリンピックのメダルを生で見て、しかも持ってみるという体験は小島さんにとっても初めてだったようでとても驚いていた。そんな小島さんを見た三宅さんが、
「これでもしかしたら(スニーカーの)デザインのインスピレーションになるかもしれませんね」
とニヤリ。今日という日がまた何かのはじまりになるのでは、と少しだけ期待してしまう瞬間であった。
× TOKYO 終
2020年7月掲載