6月20日 スリル満点の1200km、レンタカー移動。
ダーバンまで行きは飛行機でやってきたが、帰りはジョージで集団生活する合宿メンバーに合流してレンタカーで戻る旅に参加した。距離は何と1200km。大体東京―博多間くらいだという。とはいえ南アフリカの高速道路は対面走行だとか。丸1日かけての移動になりそうだ。運転を交代しながらの旅。このために国際免許証も持ってきた。
オランダとの試合が終わって、みんなの仕事がひと区切りついたときには夜9時を回っていた。夜のダーバンって怖いの何のって。ほぼ人が歩いていないのに、暗いところには人影が見える。暗闇に包まれたその通りを走るわけだから緊張極まりない。信号が赤になると、周りをきょろきょろと見回してしまった。できれば止まりたくないほど、不気味なのだ。
ダーバンを過ぎて高速に乗ると、「行けるところまで行って宿を探そう」ということになった。高速といっても日本のように整備されていない。町のなかを普通に通らなければならない。
町が出てくると夜12時を過ぎているというのに、バーみたいなところに人が集結していた。どう見ても、怖いお兄さんたちだ。おっかなびっくりで町を過ぎていくと、今度は動物注意の標識が待っていた。
行きを運転してきたKくんいわく「夜、動物がいて本当に危ないんです」。
ライトを照らしてみると突然、馬や牛がいることに気付く。慣れていない僕はさすがに夜の運転は遠慮させてもらうことにした。
暗闇をドンドンと行く。目の前に動物が出てくるんじゃないかっていう恐怖は、相当なものである。交代で寝ようと決めたが、眠れない。
どれくらい車で走っただろうか?
周りに何もない道を抜け、広い道路になった。人もいない、動物もいない。みんな眠気が強くなってきたところで、車を止めて外に出た。
「南アフリカの夜空って凄いですよ」
Kくんから聞いていたが、想像以上だった。
一面、星だらけ。こんなに星ってあったっけというぐらいの数だった。流れ星も見ることができたし、僕はしばし心を夜空に奪われていた。空を見てこんなに感動したのは初めてだった。
結局500kmほど走って(夜担当のドライバーさんに頑張ってもらった)、サヴォイという町に出てホテルを見つけた。時計を見たら、もう午前3時。飛び込みで宿泊をお願いして大丈夫だろうか。夜空を見て吹き飛んでいたはずのみんなの眠気はもはや限界だった。これで断られたら車中泊しかないとみんな覚悟した。
フロントのお姉さんはとてもいい人で、快く泊めてくれた。ジョークでも何でもなく、天使に見えた。
4時間ほど仮眠をとってから一路、ジョージへ。僕もここから運転させてもらったが、真っ直ぐなハイウェーを運転するのは最高に気持ち良かった。
到着したのは夜8時。よく考えたら丸一日ほとんど食事をしていない。レストランでお腹を満たしてからアパートへ。やっとジョージの町に戻ってきた。
6月21日 南アフリカのランドリー事情。
日本代表の練習はオフ。ということで我々も取材に行かなくていいため、原稿を書いたり、ショッピングに出たりと比較的、自由に時間を使った。
ジョージには大きなショッピングモールがある。ブランドショップに、携帯ショップ、ペットショップなどなどあらゆるものが入っている。
お土産を買うためにいろんな店を見て回っていると、おばさんが声をかけてきた。
「あなた日本人? 日本のサッカーを応援にやってきたの?」
僕たちが「日本代表の取材でここに滞在しているんです」と答えると、そのおばさんは笑顔でこう言った。
「そうなの。じゃあジョージが素晴らしいところだって、伝えてくださいね。南アフリカはいい国だって」
このジョージという町は気さくな人が多い。結構、話しかけてくる。もちろんおっかない感じの人のときは急いで逃げるが……。
モールには大会のお土産もいろいろ売ってある。ブブゼラも各国仕様のものが置いてあって、もちろん日本のもあった。なぜか「オシムジャパン」と書いてあるが、まあよしとしよう。
取材に行かなくていい日は、洗濯するのに最適だ。
車を少し走らせると、行きつけのコインランドリーがある。
入り口のドアは二重になっていて、ブザーを押してから中に入らなければならない。コインランドリーの安全を確保するためだ。
コインランドリーといえばすべてセルフでやらなきゃいけないのが普通。だが南アフリカは中におばさんがいて、自分でやるのはスタートだけ。ここで離れてOKなのである。自分で乾燥機に入れなくても、あとはおばさんたちが勝手にやってくれます(もちろん洗剤や柔軟剤は自分たちで用意します)。シャツや下着を丁寧に一枚一枚丁寧にたたんでくれて、ビニールに入れてくれるという流れになる。とても有難いシステムだ。
6月22日 テレビにかじりついた夜。
ジョージの町は盛り上がっていた。南アフリカ代表にとっては大一番となるフランス代表との一戦。ウルグアイ代表とメキシコ代表が引き分けならこの2チームが突破を果たし、どちらかが大量得点で勝ち、南アフリカもフランス相手に大差で勝てば奇跡のグループリーグ突破となる。そんな状況であっても町は大フィーバーだった。窓を開けるとブブゼラがいたるところで鳴り響く。
ここにやってきて2週間。人も親切で、食べ物はおいしいし、すっかり南アフリカのファンになっていた。
夕方のキックオフ。我々はアパートに戻って、ライターのMくんがつくったハヤシライス(絶品!)を食べながら観戦。前半から飛ばす南アフリカがシュートするだけで隣の部屋から絶叫が聞こえてくる。先制すると、「キャー」という声。2点目とると「ウォー」という声。しかし、後半に1点返されたところで声が聞こえなくなった。みんな固唾をのんで、試合を見ていたのでしょう。
フランス代表に勝利したものの、グループリーグで敗退が決定。南アフリカ代表の戦いぶりは人々の心に訴えるものがあった。
夜の試合では韓国がナイジェリアに引き分けて、グループリーグ突破を決めた。テレビにかじりつく一日になってしまった。
明日は日本代表がデンマーク代表との対戦に臨むラステンバーグに向かう予定。疲れも溜まっているし、早く寝ることにしよう。
続くっっっ!
2022年9月公開