2005年、写真を始めて3年目になったばかりの僕は野心に溢れていました。当時、僕が主に撮影していたのはサッカーでした。そんな僕の目標は2つ。ひとつは自分の写真をスポーツ総合誌に掲載させること。専門誌ではなく総合誌にこだわっていました。そして、もうひとつは翌年に控えたワールドカップドイツ大会を取材することでした。
当時、憧れていた4大スポーツ総合誌
そんな僕にチャンスが巡ってきました。まだ駆け出しだった僕を応援してくれていたある方からそっと耳打ちをされたのです。
「2.9だけどさ、裏に行ってみない? 高須くんが行かないなら他のカメラマンに頼むけど、、」。
裏? 最初は意味がわかりませんでしたが、話を聞いて納得しました。2.9とは日付のことです。つまり表が埼玉スタジアムのワールドカップ・アジア最終予選の日本対北朝鮮で、裏は同日にマナーマで予定されていたバーレーン対イランのことだったのです。このときの予選は 2月9日に初戦、3月25日と30日に第二戦、三戦が予定されていました。日本は第二戦にアウェイでイラン、第三戦でホームにバーレーンを迎える予定で、特にイランは最大のライバルと目されていました。
今となっては中東サッカー情報も豊富ですが、当時は情報がほとんどなく、ライバルは未知の国としてサポーターに恐れられる存在でした。特にU21ドイツ代表に招集された経験を持つフェリドゥーン・ザンディがイラン代表として最終予選に臨むことになり話題になりました。ザ、ザンディだと、、、誰? イケメンらしいぞ!? でも写真がない! そう、僕に課せられたミッションは大一番となる3月シリーズに向けたプレビュー用の写真、特にザンディを撮りためることだったのです。ただし、ここで大きな問題がありました。
僕はそれまで海外に行ったことはありましたが、単独旅行は経験がありませんでした。チェックインと出国審査の違いは? そもそもバーレーンってどこ? え? 中東? 中東って怖いとこだよね? 羽田から関空経由でドバイ、乗り換えてバーレーン。はい? あ、あと英語もほとんど喋れないですし、そもそも取材申請はどこの誰に出せばいいんですか?? ここまでおよそ1分。うーーーーーん。僕の思考はレッドゾーンで唸りをあげていました。
初めての海外取材が中東で、しかも単独。全財産とも呼べる機材を守りながらの取材。果たして無事に帰国できるのか。今ほどグーグル先生は発達しておらず、取材申請方法は不明、飛行機は旅行代理店頼み、宿は「地球の歩き方」の安いところから選ぶような時代です。ハッキリ言ってしまえば、難度が高いミッションでした。
あらゆるリスクを考えて、や~、さすがに無、、、、。そこから先は言葉を飲み込みました。多くのカメラマンが集まる表の試合で僕が入り込む余地はありません。ある編集者はこう言いました。「代表はカメラマン間に合ってるんだよね~」。そして「高須くんが行かないなら他のカメラマンに頼むけど、頼むけど、、むけど、、、けど、、、、ど、、、、、」の言葉が脳内でリフレインしました。せっかくチャンスをくれた厚意を無駄にするのか! リスクを恐れて成功できるのか!? 甘ったれてたら一生このままだぞ俺!?? うおおおおおおおおおおおお
「行きますっ!! 行かせてくださいっっっ(くううううううう)」。
もう破れかぶれ。しっかり考えることもなく、妙なテンションのままバーレーンという未知の国へ行くことを決めてしまったのでした。
2020年3月掲載