強さその9.肉体の中心を打つ
──拳四朗選手のSOLIDなパンチについてもう少し教えてください。体の軸がブレない、パンチの力が逃げないという話でした。
拳四朗 教わっている三迫ジムの加藤健太トレーナーには「打つときに相手の芯を打っている」と言われました。真ん中、体幹を打っているというか。だから相手もバランスを崩しやすいということです。
福田 なるほど。
拳四朗 はじを打っても力が逃げるというか、効かないじゃないですか。中心を打てば相手の頭なり体なりが後ろに下がる。パンチを打って押しこめるということですよね。そこを打つのがうまいと言われて、意識はしてなかったけど、「ああ、そうなのか」と。
福田 確かにジャブでも何でも真ん中を打ってますね。
拳四朗 だから相手の体が起きやすいというか。逃げられないというか。
福田 相手がガードしていても、おでこの中心にパンチがヒットしている写真は多いかもしれません。
拳四朗 体幹、真ん中を打てば、相手がたとえガードしていても動かせるし、バランスを崩すことができます。そこをとらえるのってけっこう大事なんですよね。
福田 狙ったところに当てられる。これは練習との成果というよりも、もともと備わっていたものですか。
拳四朗 そうですね、たぶん。自分では言われるまで意外に気が付かなかったです。「真ん中を打て」とかいままで言われたことないですから。
拳四朗のボクシングはカメラマン泣かせ
福田 僕の立場でいうと写真が撮りにくいんですよ。横からパンチが当たって顔面が弾かれると、顔が曲がったり、アゴに食い込んだり、いわゆる“わかりやすい”写真になりやすい。真ん中って当たり方が意外と地味なんです。一番効くんでしょうけど。
──リズムが速くて、パンチは真ん中に当たるんだから、カメラマン泣かせですね。
福田 とにかく疲れますね。
拳四朗 そんなに疲れるんですか! それは驚きですね。
福田 対戦相手が疲れちゃうリズムだからこっちも当然疲れますよね。でも、勝ったあとにいい表情をしてくれるので撮りやすいですし、色白で肌がきれいなのでかぶりが少ないんですよ。色が黒めだと、リングの色とか、広告の色とか、コーナーとかグローブの色とか、抜けにくいんですよ。色白のほうがきれいに撮れます。
拳四朗 そういうことがあるんですね。
福田 あります。あとグローブはずっと黒ですよね。
拳四朗 そうです。
福田 グローブは黒だから難しいんですよ。天井の色とかぶっちゃたりとか、ガードの間からパンチが入ったりすると、相手のグローブの色とかぶってつぶれちゃったりする。赤いグローブだと大丈夫なんですけど。
──グローブを変えたほうがいいですかね?
福田 いやいや、ずっと勝って防衛しているからそれは変えないほうがいいと思いますけど(笑)。
拳四朗 僕が決めているわけじゃないんですけど、最初から黒でしたね。白だったら白とびとかあるんですかね。
福田 ありますね。赤だと顔が真っ赤になっちゃったりとかありますね。色が出ないという点では黒がいいかもしれないですけどね。
拳四朗 いろいろあるんですね。
──写真を撮られて「これはいい」、「これはかんべんしてくれ」というのはありますか?
拳四朗 たまにパンチもらってめっちゃ不細工になってる写真ってあるじゃないですか。あれは見ていて面白いと思いますね。あの瞬間を撮るってすごいと思います。あんなすごいことになってんねやと。
──拳四朗選手はあまり打たれないので、そういう写真は少ないのでは?
拳四朗 なくはないですよ。最近は少ないかもしれませんけど。
福田 僕も海外のメディアに写真を出すとき、日本人選手のいいところばかりだと嘘くさいかなと思うので、1、2枚は打たれたところを入れさせてもらってます。
拳四朗 でもああいう瞬間を撮れたら気持ちよさそうですね。
福田 ですね。
──試合中にリングサイドのカメラマンが気になることはありますか?
拳四朗 試合中はまったくないです。
強さその10.深く考えすぎない
福田 12月の試合前に拳四朗選手がリングチェックにきて、キャンバスに描かれた「北斗の拳」(※)の広告のところで寝そべるから写真を撮ってください、と言われました。
※人気漫画「北斗の拳」の主人公ケンシロウが拳四朗の名前の由来となっている
拳四朗 ありました(笑)。
福田 試合中にそこのことが気になってしまって(笑)。試合後ってリングの中にいっぱい人がなだれこんでくるじゃないですか。だから拳四朗選手が寝そべったときに、人が邪魔にならないでうまく撮れるかどうか心配だったんです。結果は問題ありませんでした。
──試合前のリングチェックは大事ですね。
拳四朗 まあチェックといっても別にリングには上がらなかったですけど。
──えっ! 普通はリングに上がってキャンバスの感触とか確かめるのでは…。
拳四朗 見に行っただけですね。お、「北斗の拳」があるって。
福田 ほんと、細かいこと気にしないですよね。
拳四朗 しないですね。基本的には深く考えないですね。なんとかなると。
福田 そういう精神的な強さも感じますね。
拳四朗 強いんか、何も考えてないんか(笑)。
福田 ひょうひょうと明るい感じで、普通に勝って帰ってくる。なんかかっこいいんですよ。
2020年3月掲載