目指す有明には東京メトロ有楽町線豊洲駅から新交通ゆりかもめを使うルートを取った。その昔、な~んにもなかった豊洲駅近辺は、2006年に石川島播磨重工(現IHI)東京第一工場跡地に大型ショッピングセンター、「アーバンドッグららぽーと豊洲」が誕生。これを契機に高層マンションがバンバンと建ち始め、豊洲の街並みはかつてとはすっかり様変わりした。
私が豊洲の変貌ぶりに驚いてしまうのは、その昔、有明に社屋があった今はなき夕刊紙、内外タイムスの契約記者として働いた時期があるからだ。あれは2001年から04年あたりだったと思う。終わりがはっきりしないのは、終盤はフリーライターとして同社に関わっていたからで、内外タイムス社は09年に倒産した。
ゆりかもめから見える選手村
高所を走るゆりかもめに乗ると東京の街がよく見える。選手村を遠くに眺めていると、新交通は緩やかにカーブして有明テニスの森駅に到着した。眼下に黒い土を何か所も盛り上げ、ダンプカーやブルドーザーが置かれた工事現場のような土地が広がっている。「何を作っているの?」と思ったこの場所が有明アーバンスポーツパーク。自転車のBMXレーシング、BMXフリースタイル、スケートボードが開催される。
工事中の有明アーバンスポーツパーク
ゆりかもめを挟んで反対側には有明体操競技場。体操とパラリンピックのボッチャの会場だ。早速駅から歩き始めて見ると、人通りはほとんどなく、レンタル自転車に乗っている4人組に出会った。有明テニスの森駅周辺はだだっ広く、商業施設はほぼ皆無。タワーマンションを見上げながら私と近藤カメラマンが足を進めた。
「こんな高級タワーマンション、いったいどんな人たちが住んでるんですかね?」
「う~ん、中国人のお金持ちが投資目的で買ってるとか?」
「いったいどこに買い物に行くんですかね?」
「みんな車なのかな…」
私と近藤カメラマンは東京の西の郊外に住んでいる。つまりは、夕方になれば駅の改札口から老若男女が吐き出され、駅前にはスーパーがあり、ちょっとした商店街を抜けて、小さな公園を通り過ぎて家にたどり着く、というのが当たり前の街だ。そういう人間にしてみると、有明での生活はなかなかイメージがわかないのである。
ぽつんと昭和の香を漂わせる住居表示
1万2000人収容の体操競技場を通り過ぎると、今度は有明アリーナが登場する。ここがバレーボール、パラリンピックの車いすバスケットボールの会場だ。収容人員は1万5000人。両施設とも新国立競技場と同じく囲われていて中はよく見えない。しかもこちらはまだオープンしておらず、新国立よりも囲いがしっかりしているので、すき間からのぞき見るのも難しかった。
2会場をあとにしてバス通りに出ると角には有明小中学校。ここを右に曲がってバス通りを西へ歩く。眼前に登場したのは建設中の巨大な商業施設だ。調べてみるとこれが住友不動産の再開発プロジェクト「有明ガーデン」。2020年春に開業というから間もなくである。
「イオンスタイル有明をはじめとする大型商業施設」
「8000人収容のイベントホール 東京ガーデンシアター」
「750室のホテルヴィラフォンテーヌグランド東京有明」
「露天風呂付温浴施設 泉天空の湯 有明ガーデン」
「1500戸規模の大規模マンション シティタワーズ東京ベイ」
こちらは有明ガーデン前。都内有数の再開発プロジェクトだ
広告の文句を並べてみるだけで、すごいことになっているのが分かった。何しろ「国家戦略特区認定事業」なのだそうだ。ここは昔、内外タイムスから有明コロシアムやディファ有明(2018年に閉鎖)に行く途中の道沿い。あの何もなかったところに、国家戦略的な施設が誕生しようとは! 元内外記者の腰はもう抜けてしまいそう。そうか、このあたりのタマワン族は春からここで買い物をするのか、と納得した。
有明ガーデンを過ぎると有明コロシアムが目に入る。こちらはボクシングの世界タイトルマッチで何度もお世話になっている会場だが、オリンピックでは本来のテニス、パラリンピックの車いすテニスの会場となる。現在工事中。交差点を左に折れてゆりかもめの有明駅まで歩く。このあたりはとにかく広いのでかなりの距離を歩くことに。レンタル自転車に乗る人の気持ちがよく分かった。
青海アーバンスポーツパーク。完成後はどんな姿になるのか
有明から再びゆりかもめに乗ってお台場に向かう。車窓からだだっ広い駐車場に銀色の鉄骨のようなものが組み立てられた施設が見えた。青海アーバンスポーツパークだ。ここでスポーツクライミング、バスケットボールの3×3、パラリンピックの5人制サッカーが実施される。仮設の施設であり、完全屋内ではなさそう。暑さは大丈夫なのだろうか、とちょっと心配になる。
左手にビーチバレーボール会場の潮風公園を見てお台場海浜公園駅に到着。下車して海へ向かうと海上にオリンピックシンボルが。この巨大五輪マークは1月に入ってから船で到着し、夜はライトアップされてきれいに光る。背後にはレインボーブリッジ。観光客にとっては絶好の写真スポットだ。あらためて気が付いたのだが、お台場の観光客の8割くらいは海外からの旅行者ではないだろうか。
フジテレビの社屋を右に眺めながら、デックス東京ビーチへ。ここでようやく食事にありついた。お台場は有明と違って食事の心配はなさそうだ。食後に水泳のマラソンスイミング、オリンピックとパラリンピックのトライアスロン会場となっているお台場海浜公園を散策した。
お台場海浜公園。ここも夏には熱狂が訪れる
浜に出ると船着き場がある。ここから船に乗ると浅草までのクルーズが楽しめる。お台場を出発してレインボーブリッジをくぐり、東京の街並みを眺めながら隅田川を上って浅草まで。コースや料金はいろいろあるようだが、1時間前後の乗船で1000円前後というからけっこうお得かも。
さて、お台場のオリンピック会場といえば昨夏、海水から基準値を超える大腸菌が検出され、テスト大会の一部が中止となり、選手からは「臭い」だなんだと悪評も聞かれ、大きなニュースとなった。この日も水質を向上させる作業に使っているのか、浜辺には大きな土嚢が並び、重機が無造作に止められていた。
冬のお台場海浜公園は穏やかな波が打ち返し、子供が波打ち際を歩き、カモメが浜で羽を休めていた。ここが半年後、すさまじい熱気に包まれるとはなかなか想像できなかった。
しぶさんぽ 終
2020年2月掲載