ゲスト 福田直樹(カメラマン)
パネラー 近藤俊哉(SPOALカメラマン)
パネラー 高須力(SPOALカメラマン)
司会 渋谷淳(SPOAL編集者)
福田はソニー、高須&近藤はキヤノンを愛用
渋谷 スポーツカメラマンの今後についてうかがいたいと思います。テクノロジーの変化が著しいのですが、このあたりはいかがでしょう?
近藤 福田さんはニコンからソニーに代えたと聞いてますけど。
福田 もう1年半くらい前になります。ミラーレスですね。ご縁があって「使ってみませんか」という話があって、そのとき日本にもアメリカにもリングサイドでソニーを使っている人は一人もいませんでした。そういうこともあって次の自分の展開として使ってみたら面白いなと思ったのがスタートですね。
近藤 使ってみてどうですか?
福田 すごく良かったですね。オートフォーカスがものすごくいいですし、1秒間で20コマ撮れますし。まあ数ではないですけど。
渋谷 1秒間に20コマって多いんですか?
高須 多いですね、キヤノンなら14コマかな。
福田 画質がどんどん良くなってますし、レンズも思ったよりもはるかに良くて、ボクシングだと逆光になるんですけど、フレアみたいなのはほとんどでなくて、これは面白いなと思いました。逆光でもピントを迷ったりもしないですね。ファームアップで今度は半押しで瞳オートフォーカスが使えるようになりました。
近藤 完全に合っているというか、瞳を追っていくんですか?
福田 かなり精度は高いですね。他のスポーツだといろいろな観客とかいるので分からないですけど、ボクシングの場合はあとせいぜいレフェリーがいるだけなんで。ソニーさんにいろいろ報告しながら使っているんですけど。日本に帰ってこないとできないことだったので面白くやらせてもらってますね。
高須 ソニーのα9というミラーレスは、僕らの使っている一眼レフと仕組みが違うんですよ。ソニーはオートフォーカスがいい、ようはピント合わせるのがすごく楽なんですよ。
福田 いままでがんばって撮っていたものが楽にできる。アングルさえあればだれでも撮れる時代にはなっているんですよ。今後はみんな使い始めて、アクションに関してはだれでも撮れる時代がきている。その中で自分らしい何を撮るのかが大事になるんでしょうね。昔は動画が少なくて、写真から想像して見ていた。いまはどこでも動画がたくさん出ている。そうなると動画で見られないものを出さないといけないのは間違いないですね。
渋谷 なるほど。
福田 構図、タイミング、光の入り具合を含めてですね。実現できているか分からないですけど、そういうのを目指したいですね。
近藤 さっき20コマという話が出ましたけど、映画が24コマなんですよ。てことは20コマ撮れたら動きをほぼカバーしているということなんです。以前、サッカーの現場に行ったら、「そのカメラ、壊れてるんじゃないの?」というくらい連写しているカメラマンがいるんですよ。数うちゃ当たるみたいな。まだ何も起きていないのに押しっぱなしなんです。
渋谷 そうやって撮れと言われるんですかね?
近藤 「このシーンはないのか!」と言われるのが怖いのかもしれないですね。昔のフィルム時代だったら、その一瞬を粘りに粘ってカシャッと押して、撮れるかかどうかでしたからね。
高まる機材の性能、カメラマンが何を撮るのか
福田 昔はボクシングでいうとパンチを打ち始めてから抜けるまで4コマ。ちょっとした打ち出しと当てっているところと、打ち抜けたところで、4コマか3コマです。だから2コマ目か3コマ目に合わせるタイミングで撮ってましたね。1コマ目はタイミングを合わせるための捨てゴマという感じですね。そうやってタイミングを合わせていたのが、今は撮影できるコマ数が増えてワッと線で通すような感じになってきました。当たったところも打ち抜いたところも20コマあると両方使えるので。こうなると最後はアイボみたいのを一つ置いて全部取れちゃかもしれない、という考え方もできるでしょうね。
近藤 そうなったときにカメラマンとしてどうするかですね。
福田 そうですね。どこをどう撮って、そのスポーツの何を見せたいのか。
高須 何を撮るかですよね。「動画から切り出して写真も使える時代がくるからスチールカメラなんていらない」って言っている人が10年くらい前からいるけど、これってどこを見て何を撮っているかなんで。ようはサッカーでいえばボールのあるところだけ撮っていればいい、求められているのがゴールシーンだけなのであれば、それでいいかもしれないけど、たとえばゴールを入れられて悲しんでいるゴールキーパーを撮るんであれば、それを見ていないと撮れない。自分がどこを見ているかだと思うので、福田さんのおっしゃる通りだと思います。
福田 どこにピントを合わせるのかとか。だれを撮るか。AIで見たら全然重要じゃない人が実は重要だったりする場合もありますよね。その中のどの表情を選ぶかというのも、いまのところ人間しかできないでしょうしね。少なくともしばらくは。
高須 2018年ワールドカップのベルギー戦で原口元気がゴールを決めたんですよ。決めてベンチのほうに向かって喜んでいた。でも僕からは原口の動きは遠くて何も見えない。撮っても意味ない。僕は撮らないんですよ。
渋谷 ほう。
高須 そうしたら集まった選手がしばらくしたらスタンドに向かって喜んでいたんですよ。その視線の先に西さんという代表専属のシェフがいた。西さんは二宮さんと何回か取材させてもらって個人的にもお世話になっている人です。広報の多田さんという人もいて、この人にも取材対応ですごく感謝していたんです。それで日本がワールドカップで活躍してスタッフも喜んでいるんだろうなと思って、原口じゃなくてスタンドのスタッフを撮ったんです。
渋谷 ああ、なるほど。
高須 それって人間だから僕の感情が撮らせたんですよ。そうじゃなかったら原口にピントを合わせてますから。それはまだAIにはできない。そういうところに生き残りをかけるというか、そういうのがないと生き残れないのかなと思いますね。
2020年1月公開