ゲスト 福田直樹(カメラマン)
パネラー 近藤俊哉(SPOALカメラマン)
パネラー 高須力(SPOALカメラマン)
司会 渋谷淳(SPOAL編集者)
世界で6つのボクシング雑誌の表紙を飾った1枚
渋谷 張り込み撮影はかなり興味があるんですけど、その話また別の機会にしましょう。みなさん何か思い出の撮影についてお話していただけませんか。いいものが撮れたとか、撮影が大変だったとか…。
福田 一番いいのから言うとメイウェザーvs.カネロ(2013年9月14日、ラスベガスMGMグランド)です。その当時はボクシング史上最大のイベントと言われて、カメラマンも100人くらい来て、まずリングサイドには入れない状況で、僕が写真をリングサイドで撮れるかどうかというテーマで、WOWOWが密着ドキュメンタリーをやってくれたんですよ。結局ボクシングのメディアでリングサイドに入れたのが僕だけ。幸い全員の中で一番いい2枚が撮れて、それが世界のボクシング専門誌6誌の表紙になりました。
渋谷 世界の6誌はすごい!
福田 悪いほうで言うならコネチカットで、まったくリングが見えないポジションにされたことがありました。抗議したら広報が怒っちゃって、全部のセキュリティーに「こいつは絶対入れるな」ということになって。なんとかいろいろな手を使って、ようやくメインの前にギリギリでリングが見えるところで撮影できました。
渋谷 リングが見えない場所ってどんなところですか?
福田 照明がついているやぐらがリングを覆っていて、会場がすり鉢状で上のほうからリングが見るとやぐらが被っちゃうんですよ。あとは買ったばっかりのカメラを盗まれたりとか。
渋谷 おいくら万円ですか?
福田 200ミリをつけていたから80万、90万円くらいですかね。
渋谷 うわ、それは痛い…。
高須 僕もありますよ。バンクーバー・オリンピックですべてやられました。会場の外で先輩と2人でお昼を食べているときに、席と壁の間、足元にカメラの入ったリュックを置いて、気が付いたらやられてましたね。すぐ後ろが出入り口だったんで、それが良くなかったかもしれないです。
福田 僕が盗まれたのはフロリダ州のタンパで、ガラの悪い人がたくさんいて、試合が終わってエプロンに上がって写真を撮っている間に、下りたらもう一つのカメラがありませんでした。
イランのアサディ・スタジアムは“恐怖の”盛り上がり
渋谷 高須さん、盗まれた以外の思い出は?
高須 一番興奮したということで言えば、イランのアサディ・スタジアムですね。男だけで10万人。2005年、ワールドカップの予選で、ジーコ・ジャパンがイランに負けるんですけど。朝11時くらいにテレビをつけたら、人がたくさん映ってるから過去の映像かと思ったら「LIVE」って書いてあるんですよ。
渋谷 試合は何時からなの?
高須 夜ですよ。それなのに朝から会場に入ってるんですよ。すごいんですよ、興奮度が。スタジアムのウェーブとかもすごく速い。たまに街で鳥がたくさんとまってピーチク、パーチクうるさい木があるけど、あれが10万本あるくらいの感じです。なんとも言えない、今ままで聞いたこともないような騒音というか、ヨーロッパのブーイングとも全然違うすごい圧力でした。世界のサッカースタジアムに行きましたけど、あの雰囲気はなかったですね。
渋谷 怖いですね。
高須 そうなんですよ。イランって親日で、スタジアムの周りで写真を撮っていても全然気楽に撮らしてくれるんですけど、だんだんブワーッと集まってきて、みんないいやつで乗ってるんだけど、あまりにたくさん集まってきて怖くなって逃げましたもん。
二宮(SPOAL編集長) あのときは現地から写真は送ったの? みんな昔の登山で使うよなデカい衛星の携帯を持って送ったんですよ。通信がダメでね。
高須 いわゆるビーコンといって、衛星回線を使うやつですけど、新聞社の人とかはピッチの横に置いて送ってましたね。試合が終わるとサポーターが、子どもとかもピッチに入ってくるんですけど、新聞社のカメラマンが「そこにだけは立たないでくれ、そこに立つと送れないから!」とか必死で言ってましたね。
近藤 小さなアンテナみたいなやつですね。当時は送るの大変でしたね。
高須 僕は昔はインターネットカフェに行って、店主から見えないところで、店のケーブルを引っこ抜いて自分のパソコンにつないで送ったりはしてましたね。いまはWi-Fiとかいくらでもありますけどね。
二宮 昔の写真伝送はお金もかかったでしょうね。
高須 聞いた話ですけど、Numberで初めて伝送したのが1994年のワールドカップのアメリカ大会の決勝で、4枚送るのに通信料が何百万もかかったとか。前半をネガで撮ってハーフタイムが終わって現像して、他のスタッフが伝送したということですね。後半のポジは速報じゃなくて、2週間後の特集号で使うという感じですかね。
大物映画監督の撮影で緊張走る!
渋谷 近藤さんは?
近藤 僕はそんなにないですけど、インドで野良犬がピッチに入って停電したりとかはありましたけど…。
二宮 ありましたね。あれはワールドカップ予選ですね。思い出の一枚は?
近藤 そうですね、マーティン・スコセッシ監督を撮ったときに、「周りのスタッフを入れないでくれ」と言われたんですよ。ワイワイ騒ぐみたいなのが嫌なのか、そういうことを言われて、僕も英語ができないですし「えっ」という感じで。こういう撮影は普通、取り巻きがたくさんいるものなんですよ。
渋谷 『タクシードライバー』のマーティン・スコセッシ! 撮影は1対1ですか?
近藤 いや、むこうもおばさんのマネジャーみたいなのがいて、こちらもセット替えがあったので「アシスタントだけはいいか」と直前に聞いたら、向こうがざわざわしちゃって。「聞いてねえぞ」みたいなって、そこをお願いしますと。少し微妙な空気になって、すごい待たされました。
二宮 それで落ちはなんなの?
近藤 いや、落ちはないんですけど(笑)、撮影にはにこやかに応じてくれて、最後に「ウインクしてください」と言ったら、向こうがまた「聞いていない!」みたいで一瞬にして空気が変わってしまって、ヤバイと思って日本語でオッケー、オッケー、いいですね、いいですね、みたいな感じで撮影は終わったんですけど。
渋谷 大物の撮影は気を遣うんですね。
近藤 ホント、緊張しました。ウインクはしてもらえませんでしたけど(笑)。
2020年1月公開